チリニオナジ
虚脱感。
施設に帰ってきたのはそれから2日後の事だった。勝利の余韻なんて微塵もない。あるのは只、仲間が死んだという事実と、沢山殺したという後悔だけ。
これが戦いなのか…?
自分の部屋のベッドに横になりながら俺は考えていた。
俺の中に自分の意思はあったのだろうか。姉の事を知りたいが為に人を殺すのが正しいのだろうか。何故そんなこともわからなかったのか。
未だに俺の手には敵を撃った時の感覚が残っている。それだけではない。ナイフで人を刺した感覚、風間の血の生暖かさ、鼻に残る血の臭い、首なしの死体。
…この世界は…壊れている。
俺はギリッと歯を噛み締める。何が正しくて、何が間違っているのか…わからない。
あれから花澤は風間の部屋に籠ったきり出てこない。食堂でも見かけないし、ミーティングにも顔を出さない。何度か風間の部屋を訪ねたが、鍵が掛かっていて開かない。幸い花澤の傷の治療は終わっているが、油断は許さない状況の筈だ。本当なら引きずってでも部屋から出すべきなのだろうが…。
全てが変わってしまった。大切な場所、人。たったこの数日で何もかもが変わってしまったんだ。
コン、コン。
誰だ…こんな時間に?
時刻は深夜の2時になろうかというところ。突然俺の部屋にノック音が鳴り響いた。
まさか…花澤?
俺は淡い期待を胸に玄関へと向かった。
ガチャ
扉を開けるとそこには日向の姿があった。俺は目を合わせたまま固まる。予想外だった。団長が俺の部屋に訪ねてくるなんて初めての事だったから。
「…少し話せるか?」
日向は神妙な面持ちで口を開く。
「……はい。どうぞ。」
俺は少しの沈黙の後、返事をする。
俺は日向をリビングに招き入れると、台所に向かった。
「座っててください。お茶でいいっすか?」
「いや、いらない。座れ。」
日向の発言を無視して俺はヤカンを火にかけた。その後に日向の元へと向かった。
「…どうしたんすか?こんな時間に。」
日向は暗い表情のまま一向に答えようとはしない。いつも表情は固い日向だが、今日は一段とそれが際立っている。
だが大体予想はついている。
「…つくし先輩の事っすか?」
俺から口を開いた。すると日向は小さく息を吐いてから頷く。
「…この状況を放置しておく訳にはいかない。いつ次の戦いが起こるかわからないからな…。戦えない人間をいつまでもここに置いておく訳にはいかねぇ。花澤を部屋から出すのを手伝え。」
心無い日向の言葉に俺は感情的になる。
「そんな言い方はないじゃないですか!!目の前で仲間が死んだんですよ!?あなたみたいに普通でいられる方がおかしいですよ!!」
「…それがどうした?戦っていれば死ぬことだってある。いちいちそれに反応して悲しめとでも言うのか?馬鹿な事を言うな。俺たちはそういう世界で生きてるんだ。」
「そんな…。そんな事……わかってますよ。でも…」
「…もう少し話のわかる奴だと思っていたんだがな…。お前には失望した。お前の覚悟がその程度だったとはな。もういい、お前には頼まん。」
日向はそう言って席を立った。
俺の部屋にはお湯が沸いた事を知らせるヤカンの音が鳴り響いていた。




