ホウカイ
「兄ちゃん!?なんでなん?何してるん?」
花澤は花怜の制止を振り切って風間の横に座った。まだ俺も状況が認識出来ていないが…。帯市は一向に治療を開始しようとはしない。
「…つくし。すまない。」
風間の声は震えていた。いつもよりも声に張りがない。取り乱す花澤を前に、俺はどうしたらいいかわからない。いつもそうだ…。俺は…。
「血、出とるやん!!はよ止血せなあかん!!帯ちゃん、はよしてよ!!はよ治してよ!!」
花澤は隣に座る帯市を睨み付けながら怒鳴った。だが帯市は花澤の目を見ずに首を横に振る。その姿に花澤の混乱は加速する。
「何で!?出来るやろ?あんたの医療の腕は一番なんやから!!ねえ!!はよして……お願いだから……。」
そう言って帯市を弱々しく揺さぶる花澤の目からは大粒の涙が溢れていた。花澤は何度も何度も帯市の体を叩いた。帯市は目を瞑って静止したまま動かない。すると風間は震える手で花澤の手を止めた。
「つくし、…もういい。すい臓がやられてるんだ。自分でもわかってる。」
風間は震えながらも優しく花澤に語りかけた。
「……いやや、兄ちゃん…。嘘や…。」
花澤は風間の手を握りながら地面に顔を伏せる。
「…つくしに伝えたいことは沢山あるんだがな……あまり時間がないみたいだ。」
花澤は顔を伏せたまま嗚咽を漏らしている。
「……生きてほしい。幸せになって欲しい。……本当はこんなことを言うべきじゃないと思う…。でも…お前には……ゴホッゴホッ……。」
風間は吐血する。段々と弱々しくなる声。聞き取るのが難しくなってきた。花澤は顔を上げる。
「いやや…。兄ちゃんが居らんと…うちは幸せやない…。お願い…一人にしないで…。」
「…また会える。俺は…いつでも………つくしの側に……。」
「ぁぁ…ダメ!!いかんといて、兄ちゃん…。イヤヤ……」
風間の呼吸が弱くなっていく。もう止まる。風間は死ぬのだ。
「つ…し……だ……き…だ……。」
「…うちもや。兄ちゃん…。」
そして風間は動かなくなる。苦しさや憎しみは風間の表情には見られず。その目は真っ直ぐ花澤を見たまま。
なんでだろう。暑い筈のこの島で俺は不思議と涼しさを感じている。空には満天の星。月明かりが照らす先には花澤と風間。
風間の最後の言葉は俺には聞き取れなかった。花澤は風間の手を握ったまま泣いている。
俺は傍観者でしかない。俺にとって風間も花澤も大切な人だった筈なのに…。風間が死んでも何とも思えない。
花澤にかける言葉も見つからない。
只、自分の力の無さ。虚しさ。それだけがグルグルと頭の中を回っている。
これが戦い。これが殺し合い。命をかけて戦って散っていった。それは意味がある死だと、名誉な死だと誰かが誉めてくれる訳でもない。仮初めの平和の裏で誰にも知られる事なく死んでいくのだ。果たしてこんなことに命をかける意味があるのだろうか…。俺がやらなくちゃいけない事なのか?
何で姉さんは…こんなことを。
戦いは終わった。しかし、何かが俺の中で崩れた。




