オワリノオワリ
「今の音…何?」
花澤はそう言って不安気な表情で風間を探す。
「つくし先輩はここで待っててください。俺が見てきます。」
俺は立ち上がろうとする花澤を止めた。
そして刀を手に持ちながら風間の姿を探し始める。15メートル程走ると、暗闇の中に風間が立っているのが見えた。すぐに声をかける。
「風間さん!大丈夫っすか?さっきの音って…」
「ああ…。今終わった所だ。問題ない…。」
そう答えた風間の前には二人の死体。目を開けたままのそいつらは沈黙のまま月光を見つめている。その首には深い切り傷が見える。
「よかったっす!風間さんの身に何かあったのかと思いましたよ…。」
そう言って俺がホッと胸を撫で下ろした瞬間、辺りに鐘の音が鳴り響いた。
カーン…カーン…カーン…カーン…
その音はまるで戦死者を慰霊するかのように島全体に響いた。
これは戦闘終了の合図。…遂に終わったのだ。俺たちの勝ちだ。
生きて帰ることが出来た。手に持っていた刀を鞘に収めると、急に足から力が抜けた。
「おっと、大丈夫か?ナツキ。」
崩れそうになる俺を受け止めながら風間は俺に言葉をかけた。
「…すみませんっ。何か急に力が抜けちゃって…。」
「初めての戦いにしては頑張ったと思うよ。少なくとも私の時よりも動きは良かったさ。流石“鳥海”だ。」
そう言って俺に優しく微笑みかける風間。
風間に褒められる事が嬉しい。正直自分では、あまり役に立っていなかったと思う。それでも第一目標である“生き残ること”に関してはクリアしたのだ。少しは自分を誉めてやってもいいじゃないか。
これで少しは姉さんに近付けたかな?
俺の口元は緩む。風間はそんな俺の頭をクシャクシャと撫でてくれた。
「……ところでナツキ、つくしはどこにいる?」
風間は少しの沈黙の後、前を向いたまま俺に質問をする。
「こっちっす。」
俺が歩き始めると、風間は俺の少し後ろを付いてくる。すると…
「おーい!どこに居る?」
遠くで俺たちを呼ぶ声が聞こえる。この声は花澤じゃない。
「ここですっ!!」
俺が大きな声で返事をすると、そこへ異常に発達した筋肉を身に纏う大男と花怜が走って現れた。30代半ばのこの男は第五小隊の戦う衛生兵こと、帯市達弘。その鍛え上げられた肉体に似合わず、医療の腕はチーム1である。
「花澤はどこにおる?」
帯市はすぐに花澤の場所を俺に聞いた。
「あそこです!」
俺が指を指した先には花澤の姿。相変わらず、ぐったりしているがまだ目に生気はある。
帯市はすぐに花澤の元へ走ると、傍らに座り、医療道具を用意し始めた。
「帯ちゃん…うち、助かる?」
花澤は不安そうに帯市を見る。帯市は花澤の傷口を確認しながら答えた。
「…我が手を出す前に治療はほぼ終わっておる。あとは縫合すれば完了だ。」
帯市のその言葉に風間は表情を緩めた。
それにしても…。あのガタイで帯ちゃんは無いだろ…。なんて呼び方してんだよ、あの人は。
俺は大きな溜め息をついた。その時…
…ドサッ
俺の隣に立っていた風間は突然その場に倒れた。
えっ?
混乱。何故倒れたのか理解出来ない。だが何かあったには違いない。俺はすぐにうつ伏せに倒れる風間の体を起こした。
「…風間さん?どうしたっすか?」
そう言って風間の身体を揺さぶる俺の手には生暖かい感触。見ると俺の手は真っ赤に染まっていた。
「う、うわぁぁ!?な、何で!?」
焦り、俺の混乱は加速する。異変に気付いた帯市は花澤の治療を中断してこちらに駆け寄る。そして風間の容態を確認し、小さく呟いた。
「…風間、貴様…。」
風間の胸の下辺りから血が流れているのが俺にもわかった。
「兄ちゃん!?えっ?兄ちゃん!!何があったん?離して!!」
ジタバタと暴れる花澤を花怜が必死に押さえる。
風間は帯市の目を見ながら震える唇を開いた。
「…頼みがあるんだ、帯市さん。つくしと話をさせてくれ。」
「……うむ。」
帯市は小さく呟くと、風間の身体を軽々と持ち上げた。そして花澤の隣に寝かせる。




