アクイ
ドクッ…ドクッ…
心臓の鼓動はいつもより元気がないように感じる。常識的に考えれば自陣からの足音なんだから味方。
しかし私の疑念は消えない。
段々とこちらに近付いてくる足音。私は息を殺した。
お願い!味方、味方、味方!
味方であるように必死で願った。まるで神に祈るかのように手を合わせる。木々から射し込む月明かりが私の手を照らしている。
足音が私の近くで止まった。
えっ…?
敵ならば気付く筈が無い。こんな広大なフィールドの中で身を隠しているちっぽけな私を見つける事なんてほぼ不可能だ。やっぱり私を探しに来てくれた味方なのだろうか?
私は息遣いが聞こえないように口を覆っていた手を離した。そして小さく声を出す。
「…誰なん?…隊長?」
返事は無い。
ガサッ…ガサッ。
現実は時として残酷だ。いくら神に祈っても所詮それは願望の押し付け。現実から目を背ける為の口実だ。
草の中から現れたのは見知らぬ男の顔だった。
瞬間的に体が動いた。
私は立ち上がり、敵に背を向けて走り始める。すぐに足が縺れて転ぶが、急いで再び立ち上がる。その衝撃で無線が壊れたらしい。画面が割れて不可解な音が出ている。それでも私は無線のボタンを押した。
「助けて、敵に見つかって……助けて……兄ちゃん!!」
その時だった。私の体は後ろから押されて前に倒れる。傷口が痛む。そこは森の中でも少し開けた場所。私はゆっくりと振り返る。月明かりに照らされて敵の顔が段々と見えてくる。
二人の敵は満面の笑みを浮かべていた。
悪意に満ちた笑顔。人間の汚さ。
「ぃゃゃ……いやや!!止めて!来ないで!!」
私はそこに落ちていた石やら枝やらを力無く投げつける。敵は笑ったまま私にゆっくり近付いてくる。
男は私の腕を掴んで口を開いた。
「你要么蜂鸟?它看起来非常可爱。」
すると隣にいた男は苦い表情をしながら答える。
「不良嗜好。阻止你?」
「因为我反正输了,这是这个很好吗?」
「…白色的爱」
何?何を話してるの?
恐怖感が高まる。意味がわからない事がこんなにも怖いとは思わなかった。逃げようと力を入れるが、離れられない。
敵は私をその場に押し倒す。
「へ…?な、何する…」
私の頭は真っ白になる。男は笑ったまま私の体に手を伸ばしてくる。明らかに殺意は無い。これは…違う。
「イヤヤ!!止め…止めろや!!!」
必死に抵抗する。こんなことをされるぐらいなら死んだ方がマシだ。
そんな抵抗も虚しく、男は私の身体を触り始める。そして手荒く私の服に手をかけた。だが瞬間、その手は私の目の前から突然消えた。
えっ?何が起きたの?
私の隣には男の手が落ちている。そして男の手があったであろう所からは血が吹き出し、私に降りかかる。
更に男は何者かに蹴り飛ばされる。
そこには今まで私にさえ見せたことが無い形相で立つ潤兄ちゃんの姿があった。
「きさまらぁぁ!!」
潤兄ちゃんの叫び。地を揺るがす程の威圧感。
「…兄ちゃん。」
私の目からは涙が溢れていた。




