タビダチ
それからも潤兄ちゃんと連絡はつかなかった。三ヶ月経っても、半年経っても…
ただ一つ変わらないことは、今まで施設に振り込まれていた潤兄ちゃんからの寄付金だけだった。一体どこで何をしているのだろうか?
私は潤兄ちゃんに会いたかった。
覚悟を決めたのは年末のこと。私は自衛官になることを決めた。このまま何も行動せずに私だけ普通に暮らしていくこと何て出来ない。
何か理由があるなら、私も潤兄ちゃんと一緒にそれを背負いたい。それが私に出来る唯一の恩返しだから…。
3月、無事に自衛官の試験に(ギリギリで)合格した私は施設を出る為の荷造りを始めていた。
私の隣には一人の女の子。
「つくし姉ちゃん。嫌だよ…行かないで…。」
施設で一番幼いこの子の名前は阿里沙。阿里沙は私の袖を掴んで離さない。比較的大人しいこの子はあまり同年代の子たちと馴染めず、いつも私の後ろをついて回っていた。阿里沙は今にも泣き出しそうな目で私の顔を見上げている。
ダメ…。阿里沙にこんな顔は見せられない。
私は震える唇を噛み締めて表情を笑顔に戻す。こんな時、潤兄ちゃんだったらどうするだろうか?私はハッと思い出す。
「そや、阿里沙!今からうちとデートせぇへん?」
「え…?でーとってなぁに?」
「デートっていうのはな、一緒に遊びに行くっちゅーことや。姉ちゃんと行かへん?」
「…うん!」
不安そうな表情は完全には抜けなかったが、阿里沙は大きく頷いた。
私は阿里沙の手を握って外に出た。
裏庭を抜けて小川を飛び越える。幼少の頃に大きく感じたその小川は、今では跨いで通れるぐらいの大きさになっていた。時の流れを感じる。
「ねえ、どこいくの?」
「ふっふー。それはね…姉ちゃんの秘密の場所や。」
私は阿里沙を抱き抱えながらその川を渡ると、その先に広がる腰ぐらいまで生えた草を掻き分けて進んだ。幼少の頃はあまり気にならなかったが足元はかなり悪い。
そしてようやくそこを抜け、私は目線を上げた。そこにはあの時と変わらない風景があった。
「わぁー。キレイ…。」
阿里沙が感嘆の声を上げる。
「そやろ?ここが姉ちゃんの秘密の場所や。」
抱き抱えていた阿里沙をその場に降ろすと、すぐに走り出した。
「凄いね!つくし姉ちゃん!」
私はそこに生えていた小さな土筆を一本手に取り、阿里沙に見せた。
「これはなぁに?」
阿里沙は不思議そうに土筆を見ている。
「これはな、“つくし”っていうんや。」
「お姉ちゃんの名前と一緒だねっ!」
「そや、うちと一緒。…土筆はな、花咲かない地味な植物やねん。でもな、春になると一生懸命こうやって空に向かって伸びるんや。周りの菫に負けないように、一生懸命伸びていくんや。」
「ふーん…。」
「だから阿里沙にこれをあげる。」
私は手に持っていた小さな土筆を阿里沙に差し出した。阿里沙はそれを受けとるとじっと観察している。
「阿里沙、あんたも頑張って空に向かって伸びなあかん。…それでも、もしかしたら辛くなる時も来るかもしれん。そんな時はここに来ればうちに会えるわ。」
「…うん。」
わかってるのかわかってないのか…。幼すぎるこの子には難しい話だったかもしれない。それでもいつか、これの話が阿里沙の救いになればいい。
私は阿里沙を抱いて空に抱えあげる。阿里沙は大きく口を開けなら笑っている。もう私の胸のつっかえは取れた。これでいい。
そうして私は自衛官になった。潤兄ちゃんと再開したのはもう少し後の話。
ハッと目が覚める。私はまだ生きている。相変わらず体は相当ダルいけど…。私は何であんなことを思い出していたのだろうか?
フゥと息を吐いてから時刻を確認する。18時13分だ。まだ戦闘は終わっていないのだろうか…?私は辺りをキョロキョロと見回した。
すると遠くから足音が近付いてくるのがわかった。地面に耳を近付けると、本部の方から来ているのがわかった。
どっちだろう…?
私はそっと無線機を手に取った。




