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この壊れた世界でナニヲオモフ  作者: 政吉
第一章 “仮初めの平和“
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ユダン

その時、風間と本多が戦っていた敵の動きが急に止まった。


勝敗は決したと言ってもいい。既に残り二人でどうにか出来る状況ではない。


敵は足早にその場から去っていく。


俺はそれを見てホッと胸を撫で下ろした。ようやく終わったのだ。


「朝霧先生、風間さん。大丈夫でしたかー?」


その時突然背後から日向の声がする。


ここにきてようやく第五小隊が到着したようだ。だが今更来られても正直困る。たった今終わったのだから…。一体今まで何をしていたというのだろうか?いくらなんでも遅すぎるだろ…。


「日向か。フラッグは無事だ。敵二人は退却していったよ。特に追撃はしていないが、それでいいな?」


「そうですね。無駄に殺す必要は無いですからね。それにもう間もなく攻撃部隊も制圧が完了しそうです。敵はフラッグ地点に銃を集約させてたらしいのでかなり手間取ったみたいですが…。ま、カナリアも到着しているようなので問題は無いでしょう。」


「そうか…。負傷者は居ないのか?今回は全員無事か?」


朝霧は少し心配そうな顔で日向に聞いた。基本的に戦闘中は負傷者や死亡者の情報は他の隊に伝えられる事はない。何故ならば、戦いの途中で味方を動揺させないように気遣っているからだ。


「…いえ、先程飯倉隊長が右肩を銃弾により負傷されたとの事です。あと花澤副隊長が腹部に剣傷を負っています。」


「そうか…。そういえば花澤はどこに?」


日向は安井の事を朝霧に伝えなかった。いや、伝えられなかったのかもしれない。日向の握り締められた拳はプルプルと震えているように見える。


「…つくしは既に止血を済ませてここから北に500メートルの所で待機してます。」


風間は渋い表情のまま朝霧の質問に答えた。するとそれを見ていた花怜は風間に寄り添って心配そうな顔をする。風間は花怜の頭を撫でながら声をかけた。


「俺は大丈夫だ。後で一緒につくしを迎えに行こう。」


先程から現状把握をするために質問をしているのは朝霧ばかりだ。これでは日向か朝霧、どちらが団長だかわからない。むしろ朝霧が団長をやった方がいいのではなかろうか?俺はそんなことを考えていた。


「そうか、わかった。……ところで本多、少し聞きたい事があるのだが?」


朝霧は話を変えて本多に質問を始める。


「この私に質問ですか?どうぞ、隊長殿。」


本多はまるで漫画で見た執事のように手を前に出しながら頭を下げた。


「菅野はどうした?先程から姿が見えないのだが。」


菅野は第三小隊最後の一人である。フルネームは菅野諒一すがのりょういち。俺の印象ではしっかりしていて面倒見が良い先輩なのだが…。果たしてどこに行ってしまったのだろうか?


「菅野ですか、残念ながら私は見ていませんね。」


本多の答えに朝霧はすぐに無線を取る。


『こちら朝霧より菅野へ。今どこにいる?』


……。暫く経っても返事はない。朝霧は再び無線のマイクに口を近づける。


『朝霧より菅野へ。もう一度聞くぞ?今どこにいるんだ?答えろ。』


朝霧は声を荒げる。俺の頭に最悪のイメージが浮かんだ。まさか既に菅野は…?


その時だった。第三小隊の無線から大きな声が流れる。


『す、すみません。聞いてませんでした!朝霧隊長、もう一度質問を教えてください!』


『……菅野、すぐフラッグに戻ってこい。』


『了解です!!』


すると数秒後、暗闇の中から背が高く細長い男が現れた。菅野だ。


「菅野、ただ今戻りました!!ご用件はなんでしょうか?」


「いや、用件はない。ところで菅野、今まで何をしていた?」


朝霧は腕を組ながら真っ直ぐ菅野の目を見る。


「……?ご命令通りに敵の手によって解除されたトラップの再設置をしておりましたが…?」


「作業は完了したのか?」


「9割方は復旧が終わっています。」


「そうか、ご苦労だったな。」


「はいっ!!」


菅野は満足そうな顔で朝霧に向かって敬礼をした。朝霧は溜め息をついて目線を落とした。そしてゆっくりと口を開く。


「…だがな、菅野よ。集中し過ぎる癖は直した方がいい。…それは必ずしも悪いことではないがな。」


朝霧は菅野の肩をポンと叩いた。菅野は朝霧の言葉の意味がわからないらしく、不思議そうな顔をしている。どうやらこの人は本当に先程の戦闘に気付いていなかったらしい。


「はっはっは!菅野よ、君の分まで私がしっかり戦ったさ!気にするな!」


せっかく朝霧がオブラートに包んでくれたのに、本多は平気で核心的な言葉を言ってしまう。


菅野は辺りに倒れる敵兵を見てようやく事態を把握したらしい。


「すみませんでした!!前々気付かなかったです!!」


菅野はとても大きな声で朝霧に謝罪する。どうやらその滑稽な姿が面白いらしく、花怜はニコニコと笑っていた。


だいぶ雰囲気が柔らかくなった。もうこの戦いの終わりは近い。


『ガガッ……。ガッ…』


いきなりノイズを発した俺の無線。それは風間も同じようで、二人は目を合わせた。他のメンバーの無線は鳴っていない。これは第二小隊の無線だ。


『…助けてっ…て……いる……』


途切れ途切れの通信。だがそれは確かに花澤の声だった。


俺はふと思い出す。


さっきの敵は北に撤退して行ったことを…


気付いた時には俺は走り出していた。






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