キュウジツ
釈放だ。俺はついに解放されたのだ。監禁生活は変わらないが、この際それには目を瞑ろう。今日も明日も明後日も…。何も予定がない。こんなに素晴らしいことはないだろう。
それはまるで大学の合格が決まった高校生。または就職が決まった大学生。俺の気分は今、最高潮だ。
さて、何をしようか。…いや、今日は1日寝よう。時間は腐るほどある。……多分。
俺は部屋の電気を消してベッドに横になる。
明日はどうしようか。休憩室で漫画か?それとも部屋でテレビを1日見てようかな。どうしよう…。あんまりパターン無いな。
一人だとやることが限られる。それに気付くのにさして時間はかからなかった。
なかなか寝つけない。
くそっ。なんだよ。…これはこれで暇だな。
ではどうする?誰かを誘って一緒に過ごすか?今ここに残っているメンバーと言えば…
あいつは無いな。無理だ。
一人はすぐに選択肢から消える。そうなれば答えは自ずと見えてくる。
藤代か。あいつなら話せそうだ。誘ってみよう。
俺はベッドから飛び起き、部屋を飛び出した。廊下に出て辺りを見回す。そこには夥しい数の扉。研修生一人一人に部屋が与えられていたのだ。この数にも納得だ。
藤代の部屋は…どこだ?
研修中は自由時間が無かった。唯一の息抜きと言えば、食堂で皆と夕食を食べている時ぐらいのものだった。誰かの部屋に遊びに行くなどもっての他だ。
俺はそれぞれの扉に耳を近付けて歩いた。人が居れば音がする筈だ。
……居ない。……居ない。……居ない。……居ない。……居ない。……居ない。……居ない。……居ない。……居ない。……居ない。……ん?
微かに音がする。テレビの音だ。
ここか。…よし!俺は溢れそうになる笑みを堪えながら扉を叩いた。
コンコン………………ガチャ
扉が開くと、そこには竜胆の姿。
互いに目が合う。無言だ。まるで時が止まっているように感じる。なんだ、この光景は?竜胆は俺を睨み付けている。
頭が真っ白で何も言葉が思い浮かばない。それでも睨まれたままでは終われない。
「な、なんだよ。」
俺の口から出た言葉に竜胆は小さく溜息を吐いた。
「それはこっちの台詞だろーが。」
確かにその通りだ。俺はなんて初歩的なミスを犯してしまったのだろうか。部屋を出る前は気付いていたではないか。俺の顔から火が出る。
「お、おう。明日も頑張ろうな!」
ミスにミスを塗り固めた結果、もはや意味がわからない。何で俺はこんなことを言っているのか。これ以上喋ったら俺のメンタルが終わる。誰か俺の口を止めてくれ。
「おう。……訳わかんねぇな、お前。じゃあな。」
バタン
扉が閉まる。俺はその場を足早に離れ始める。最悪だ。有り得ない。
俺のメンタルは既に崩壊寸前だ。
トボトボと歩いて部屋に歩き始める。
今日は無理だ。もう俺の気持ちが付いてこない。大人しく部屋で寝る事にしよう。明日こそは藤代を連れてウエイトトレーニングでもしてみよう。体を動かすことも必要だろうし。まあ、会えればの話だが。
そう思えば少しは楽になった。竜胆の事はなるべく考えないようにしよう。まだまだ俺たちはここで監禁されるのだろうし、気にしすぎても仕方がないのだ。
…外出したいなあ…。