カタナシ
なかなか痛みが来ない。撃たれた時って感覚ないのかな?
咄嗟に目を瞑っていた俺はゆっくりと目を開ける。そこには苦痛の表情を浮かべながら右手を押さえる敵の姿があった。
俺は事態を把握するのに少し時間がかかる。
どうやら響いた銃声は男のものでは無かったようだ。敵が持っていたであろう銃は地面に転がっている。
「はっはっはっ!!無事かね、幼き勇者君?」
なんだこのふざけた笑い声は?
俺は声の方向を見る。するとそこには銃を構える男の姿。肩にかかる程長い金色の髪は、闇夜に溶け込む紺色の服に良く映える。
確かこの人は第三小隊の一人、元警視庁特別部隊SATのエリート、本多輝定だ。その射撃の腕はチーム内でも一目置かれているらしい。
ついでに、プライドが高くいつも容姿を気にしている高飛車野郎である。
…訂正。誇り高き先輩だ。
「私が来たからにはもう安心だ!!さあ、君は僕の後ろに下がっていたまえ。なに、まだ弾丸はある。安心しなさい。」
本当に大丈夫か?いまいち俺はこの人が信じられない。確かに敵が持っていた銃を撃ち落としたのは凄いが…。
それが出来るのならば頭を撃ち抜けばそれで終わったと思うんだが…?
そんな俺の疑問など知ってか知らぬか、本多は相変わらずの口調で話を続ける。
「さあ、大人しく手を上げて投降するんだ!もう君たち中国の負けは決まっている。」
どっかの刑事ドラマで聞いたことがあるようなセリフだな。…あくまでも確保が一番の目的ということだろうか?
敵の男は本多の警告に大人しく従い、手を上げた。
「よし、そのままその場に伏せろ!」
本多そう言いながら少しずつ敵との距離をつめていく。
しかし敵は一向に伏せる気配を見せない。
「な、なぜ伏せないのだ?こいつ…まだ抵抗するつもりか…?」
本多は額から汗を滴ながら焦りの表情を見せる。
そりゃ日本語じゃわかんないだろ…相手は中国人なんだから…。
やはりこの人は天然キャラなのだろう…。悪く言えば馬鹿。何故代表に入れたのか不思議で仕方ない。
俺がそんなどうでも良い事を考えていた時だった。敵は一瞬の隙を突いて本多が構えていた銃を蹴り飛ばした。
「しまった!?」
敵はそのまま腰からナイフを取り出すと、本多に向かってそれを突き出した。
本多は咄嗟に足に装着していた警棒を伸ばし、応戦する。
この敵は明らかに今までの敵とは違う。
動きの早さや統率の取れた動き、個々の力の強さ。全てにおいて先程までの新人とはまるで動きが違う。
本多は次々と振られる敵のナイフを避けるので精一杯だった。いや、避けてると言うか逃げてるというか…。
援護にに行くべきか迷うが、ここを離れる訳にもいかない。今フラッグには俺しか居ないのだから。
そう言えば里穂はどうなったのだろうか?
俺は北側に目線を戻した。
里穂は二人を相手に未だ奮闘していた。どうやら二人目には気付いていたらしい。しかしまさかあの状況から一人で持ちこたえているとは…。
しかしその戦況は芳しくない。前から後ろから振られる剣を避けるのは簡単ではない。いや、むしろ普通は出来ない。里穂は必死に攻撃を避け続ける。
その時だった。ついに敵の蹴りが里穂の腹部に一発入る。その小さな身体は簡単に吹っ飛び、倒れた。するともう一人の敵はすぐに倒れた里穂に向かって剣を突き刺そうと走り出した。
「里穂さん避けて!!」
俺は声を上げる。
「おいおい。俺の嫁に何してるんだ?」
鉄と鉄が激しく当たり、火花を散らせる。そこには割って入った朝霧の姿。朝霧はその剣を手甲で弾いていた。里穂は咄嗟に口を開く。
「遅ーい!!バカバカ!!かっこつけて一人で前に行ったくせに見事に後ろ取られてるじゃない!!本当にバカ!!アホ!!駄夫!!」
「す、すまない。敵は先程から前方から攻めてきていたからな…。今回もてっきり…」
「うるさい!!言い訳なんて聞きたくない!!この鈍足!」
散々な言われようだ。これでは伝説の英雄が形無しである。里穂に怒られたせいで朝霧の表情はまるで寂しげな犬のようになっている。先程の鬼のような表情からは想像できない。
里穂は小さくため息を吐くと表情を変えた。
「こいつら結構やるわ。玄太郎、ちゃんとあたしを守ってよ?」
「ああ、任せろ。お前は攻めることだけ考えていい。」
二人の雰囲気が変わる。いや、二人と言うか…変わったのは里穂の雰囲気だ…。
里穂はニヤッと笑う。
何かが…始まる?




