コウボウ
あの笛の音は第三小隊で使われる敵襲の合図だ。敵に正確な位置を知られないようにあえて特殊な笛を使っているらしい。
これは最終ミーティングでちゃんと聞いていたから覚えている。
それにしても…。正面に見える朝霧以外の第三小隊メンバーはどこに居るのだろうか?この状況で左右から攻められたら俺たちが止めるしかないぞ、これ。
フラッグは海風に揺られてパタパタと音を立てる。俺は時計を見る。既に時刻は18時を回っている。
…ん?
微かにだが、何かの気配を感じる。向かって左側、俺たちが入ってきたトラップコードの方だ。俺は目を凝らしてその付近をじっと見つめる。すると確かに夕闇の中で何かが動いているのがわかる。
俺は風間の肩を叩き、サインを送る。
“何かが左から来ます”
“了解”
俺は風間のサインを確認すると、再び目線を戻した。だがその一連の流れが思わぬ危機を招いた。
俺が目を離したのはほんの数秒だった筈だ。
既に俺の目の前には3つの人影。距離は10メートルを切っている。俺は思わず声を上げる。
「き、来てます!!風間さん!!」
いつも人任せ。少しは自分でどうにかしようとは思わないのだろうか。これは甘え以外の何でもない。自分の発言に少し嫌悪感を抱く。
風間はすぐに俺の前に立つと、刀を構えた。
「フラッグを死守しろ!!相手も死ぬ気で来るぞ!」
俺は風間の後ろで脇差しを構える。
その時だった。俺たちと敵の間に再び里穂が現れる。
「風間、一人頼んでもいい?」
「了解っ。」
里穂の問いかけに風間は瞬時に答える。
そして里穂を迂回するように右から回り込んでくる一人の敵に向かって風間は走り出した。
里穂は対峙する一人の敵兵と戦闘を開始する。端から見れば大人と子供の喧嘩。だがその幼すぎる容姿とは裏腹に里穂のナイフ捌きの技術は並みのそれでは無かった。
里穂は敵の剣撃を次々と往なしていく。互いに一歩も引かない攻防。なんてレベルの高い戦闘なのだろうか。
「…ダメ。もう我慢出来そうにないわ…。だいたいこいつら………」
里穂はなにやらブツブツと言葉を発しながら戦いを続けている。
ここで俺はふと疑問を抱く。
…あれ?確か敵は3人だったような…?
残りの一人はどこに行った?
俺は辺りを見回す。
見つけた。里穂の左側の死角に一人居る。そいつは体勢を低くして里穂の戦いの様子を伺っている。
里穂はそいつに気付いてないのか?
ヤバイ。教えなきゃ!
俺は声を出そうと喉に力を込める。だがその瞬間、思わぬ情報が俺の耳に入ってくる。
「ナツキ!!後ろだ!!」
風間の声。
後ろ?後ろってなんだよ?俺はすぐに後ろを振り返る。そこには小柄な男が一人、フラッグのボタンへ手を伸ばしているのが見える。
「もう一人居たのか!?…くそっ!!させるかっ!」
俺は咄嗟に刀を振るい、その敵を攻撃する。男は伸ばしていた手をサッと引っ込めると、後ろに下がって俺の攻撃をギリギリで避けた。
「フラッグは落とさせやしないっ!来い!!」
すると小柄なその男は腰から何かを取り出す。そして満面の笑みを浮かべながらそれを俺に突き付けた。
「あっ…ちょっ、それは……」
男は俺に向かって銃を構える。先程までの俺の強気な姿勢は簡単に崩れ去る。ここまで来たらもう容赦はしないだろう。何せもう目の前にフラッグがあるのだから。
使うタイミング…上手いな。
気付いたときには俺は何故か敵を称賛していた。自分の死が目の前にあるというのに…。
俺の頭には姉と花澤の姿が浮かぶ。これが走馬灯ってやつかな?今までの記憶が凝縮されて俺の頭を流れている。
“ナツキ、死んだらあかんよ?”
そして花澤の言葉を思い出す。ついさっきの言葉だ。
敵が引き金の指に力を込めるのが見える。
…パァン
そして辺りに銃声が響き渡る。




