ケツイ
時刻は17時になろうかというところ。日が傾き始め、森は表情を変える。
「ダメだ、暗くなってきたな…。ナツキ、本部へ急ごう。時間が無い。」
風間は手早く花澤の傷口に包帯を巻くと、そのまま花澤を背負った。
「担架は使わないんすか?」
「時間が無いし暗くなって足下が見えない。多少のリスクはあるが、背負った方が早い。ナツキ、すまないが本部まで索敵をお願いしたい。」
「わかりました。……景虎さんはどうするんですか?まさかこのままここに置いていけなんて言わないですよね?」
「…ダメだ。連れていけない。そんな余裕は無い。」
「…そんな余裕?そんな余裕ってどういう意味ですか?景虎さんは俺たちを助けてくれたんですよ!?俺はこのままここに置いてなんていけませんよ!!」
俺は安井の亡骸に手を掛けた。だが安井の右肩が切り裂かれているせいで上手く背負えない。傷口の血は酸化して赤黒く変色している。
「ダメだナツキ。景虎はここに置いていく。早くするんだ。」
「嫌です。俺は引きずってでも景虎さんを運びます。こんな所に一人で置いておけません。」
風間は背負っていた花澤をゆっくりと降ろすと、俺の元へと向かってくる。
そして安井の亡骸を引きずる俺の手を力ずくで引き離した。
「何するんですか!!止めてくださいよ!!」
俺は風間の手を振りほどき、口調を荒げた。
「いいから命令を聞け、ナツキ!!」
「嫌です!!」
俺が再び安井の亡骸を手を伸ばしたその時、俺の体は風間によって側に生えていた木に押し付けられる。風間は物凄い見幕で俺を睨む。
「放せ!!俺はあんたの命令なんて聞かない!!あんたがそんな人でなしだとは思わなかった。」
「聞け。」
「嫌だ!!聞かない!!」
「いいから聞け!!」
風間の本気の怒鳴り。俺は口を開けたまま黙る。
「景虎と俺は初期メンバーの一人だ。今までずっと一緒に戦ってきた。私だって何度も助けられたことがある。辛いのは私だって同じだ。本当はこんな所に置いていきたくないさ。」
風間は目に涙を溜めながら話を続ける。
「だがな、景虎に救ってもらった命だからこそ俺たちは生きなきゃいけないんだ。お前たちは景虎の生きた証だ。その責任をお前はわかってない。ナツキ、景虎は今ここで運んで欲しいとは願っていると思うか?」
「でも…でも…」
俺の目からは再び涙が溢れる。風間は優しく俺の頭を撫でると、俺の手に何かを渡した。
「これは…」
手を開くとそこには血だらけドックタグ。安井が最後に俺に手渡したものだ。いつの間にか俺の手元から離れていた。
「景虎は自分の誇りをナツキに託したんだ。これはおまえが持っていろ。」
俺は目を閉じてそのドックタグを胸の前でぎゅっと握りしめる。
すると風間は再び花澤を背負い始めた。
俺は安井のドックタグを首から下げる。
「いくぞ、ナツキ。」
「はい。」
俺は安井の亡骸を横目に走り始めた。安井の顔は西陽に照らされて赤く染まっている。その表情はどこか穏やかに眠っているように俺には見えた。




