ウスレユク
鮮血の匂い。ポタポタと流れる血が露草に垂れ、地面を赤く染める。
俺が目を開けるとそこには、脇腹を抉られるように貫かれながら剣を止める花澤の姿があった。
「なんや、雪、久しぶりやないか。」
花澤は苦痛に顔を歪ませながらナイフを男に向けて振った。男は剣を抜きながらそれを避けると、距離を取った。
2メートルぐらいありそうなその男は剣に付いた血を振り払う。角刈りの頭が木漏れ日を浴びて白く染まる。男は表情一つ変えることなくこちらをじっと見つめてくる。
俺は息を荒くしながら花澤を見る。その傷口からは血がボタボタと流れている。
「…哉蜂鳥?」
中国語か?何を言ってるか俺にはわからない。
「せや。覚えてもらえて光栄やな。」
花澤は傷口を左手で押さえながら答えた。
「せ、先輩!!血が…」
「わかっとる。ナツキ、止血剤持っとるね?用意しといてや。」
俺は急いで腰に着けた救護キットを漁る。メンバー全員に支給されている簡易医療道具だ。
だが手が震えて上手く動かない。雪と言えば花澤が言っていた中国チームの一番の実力者だ。ランクは確かAA。
「ちょっち待ってや。血、止めさせてや。」
花澤は引き吊った笑顔しながら雪に向かってそう言った。
雪はニヤっと笑うと、首を横に振る。
「あはは。…やっぱりそうなるよねー。」
花澤が答えた瞬間、雪は一気に花澤との距離を詰める。
雪が持っている剣は刀身が1.5メートルぐらいはありそうな大剣だ。その長さに耐えられるようにだろうか、太さも日本刀の2倍はあるように見える。
雪は頭の上から剣を降り下ろした。風を切る音が辺りに響く。
花澤は飛び込むように横に回避すると、更に続けて降られる雪の剣をまるで曲芸のように避け続ける。
だが動く度に花澤の傷口からは血液が滲み出ている。
俺はここでようやく脇差しを鞘から抜く。
助けなきゃ花澤が死ぬ。
俺は雪に気づかれないように背後に近付いた。攻撃をするなら殺傷能力が一番高い突きに限る。特に日本刀は刀身が硬く、鋭い。斬撃にも突撃にも優れている武器と言える。
俺は雪の背中に向かって力一杯刀を突き刺した。しかし…
何だ?刀が背中に刺さらない。硬い!?
服の下に何かがある。…これは鉄板か?
雪は俺の攻撃に気付くと、ゆっくりと振り向いた。その顔はまるで修羅の様。俺は震える体を抑えて刀を構えた。
「お、俺が相手だ!デカブツ野郎!」
発言が完全に死亡フラグだ。だがそんなことはどうでもいい。今は俺がどうにかしなくちゃいけないんだ。
「ダメや!!ナツキが相手に出来るような相手ちゃうわ!」
そんなことはわかってる。でも、俺が守るんだ。
雪は俺に向かって剣を振り下ろした。俺はそれを
最小限の動きでかわし、左手で刀を雪の首に向けて振る。
いける!!完全にカウンターが入った。俺の刀はまっすぐ雪の首へと向かっていく。
だが雪は体を反らせてそれを簡単に避けると、さらに体を回転させながら俺に向けて剣を大きく振った。
「…っ!?」
俺はとっさに腰に差してあったナイフを右手で抜き、それを受け止めた。…いや、受け止めきれる訳がない。俺はそのまま吹き飛ばされた。
「……痛った。」
身体中に痛みが走ると同時に脇腹に違和感を感じる。見ると雪の剣を受け止めたナイフが俺の脇腹に刺さっている。俺は焦りながらそれを抜いた。幸い刃先が軽く刺さる程度だった。
俺はゆっくり立ち上がり、目線を上げた。そこには次の攻撃を始めようとしている雪の姿。
「うわっ!?」
早い。どうやらこちらに隙を与えるつもりは無いらしい。そりゃそうか。…殺し合いなんだから。
俺は刀で受け止める。なんて力だろうか。剣の重さも相まってか一撃が重い。これがAAランクなのか。…化物過ぎる。
俺はなんとか雪の剣を逸らすと、ブンブンと刀をがむしゃらに雪に向けて振った。だが俺の攻撃は届きもしない。雪は俺の攻撃範囲に入ってこないからだ。リーチの差があり過ぎるのだ。
ある程度俺の攻撃を避けきると雪はニヤニヤと笑いながら反撃を開始した。俺は避ける事もままならなかった。刀身が長い雪の剣を避けるのは簡単ではない。先程から体の端々に切り傷が増えていく。
何とか致命傷は避けているものの、早くも時間の問題だった。
段々意識が薄れてくる。ずっと張り詰めていた頭の糸が切れそうだ。雪は剣を俺の首に向けて突き出して来る。
くそっ…。あっけねぇな……
その時…
「ナツキ!!」
姉の声が聞こえた。薄れていた俺の意識が戻る。
俺は首もとの剣を間一髪で避けると、そのまま手に持っていたナイフを雪の腕に突き刺した。
「ぐぉぉ!?」
雪の顔が苦痛に歪む。




