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この壊れた世界でナニヲオモフ  作者: 政吉
第一章 “仮初めの平和“
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セントウカイシ

谷は思ったほど見通しが良くない。木々が生い茂り、崖上からはそう簡単には見つかりそうにない。多分大丈夫だ。


「こちら風間から日向へ。第二小隊は作戦位置に到着。これより前進する。」


風間は無線連絡を入れる。数秒後に風間からゴーサインが出る。


「先行するでー!」


花澤はそう言って再び前に出た。作戦通り、俺と風間は後方に展開する。俺は左側の崖上を警戒しながら走った。


それにしても月島はどこに行ってしまったのだろうか?先程俺を置いて先に行ったまま未だに戻らない。少し心配になってきた。だがそれについては風間も花澤も何も触れようともしないし、心配する素振りも見えない。


既に300メートル程は前進しただろうか。ちょうど島の北側中央付近だ。相手もこちらと同じペースで進行してきているならば、そろそろ姿が見えてもおかしくない。


前方の花澤はこちらに振り向いてサインを送ってくる。


『前方敵影なし。前進を続ける。』


このままフラッグまで行けるのではなかろうか?俺はふとそんなことを思っていた。だがそれに反して風間の表情はいつもより険しかった。


新緑の道、隣には綺麗な小川。相変わらず気温は暑いが、苦では無かった。木々の隙間から射し込む日の光りが時々俺の体に当たり、服の色を変えている。俺は幼少の時に行ったピクニックを思い出していた。空気が美味しい。今は戦闘中とは思えない程の余裕だ。


さらに100メートル程進んだだろうか。未だに何も起こらない。これはひょっとすると俺の予想が当たったかもしれない。俺はホッと胸を撫で下ろす。


その時だった。いきなり無線が入る。


『飯倉から第二小隊へ。南側に敵影はない。敵主力部隊はそちらに展開している可能性がある。警戒しろ。』


南側に展開していた第一小隊からの無線だった。という事は未だにどの小隊も戦闘を開始していないのか?


それを聞いた直後、風間は声を上げた。


「いけない!!これは罠だ!」


俺は風間の叫ぶような声を聞いてハッと気づいた。


俺はさっきから左側の崖上を見ていない。


とっさに左を見上げる。そこには1人の見慣れない兵士が、こちらをじっと見ている。一気に血の気が引いた。その距離は約30メートル。


「か、風間さん!敵です!!」


「ダメだ囲まれている。」


風間の予想外の言葉に俺は困惑する。右崖の上には2人の敵兵が見える。


風間は後ろを振り返る。そこにはさらに2人の兵士が、ニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。


ダラダラと冷や汗が流れる。俺のせいだ。俺が左側をちゃんと警戒していなかったから囲まれたんだ。


嫌だ。死にたくない。嫌だ。死にたくない。


「風間さん、どうすれば?ねえ、風間さん!!」


俺は怒鳴るように風間を呼んだ。


「つくし!!ナツキを連れて前に走れ!」


その言葉とほぼ同時に花澤は俺の手を取った。命令より先に花澤は動き出していたのだ。


「はよ!走って!!」


花澤に手を引かれながら俺は振り返る。そこには敵に囲まれ、ジリジリと追い詰められる風間の姿があった。


「つくし先輩!!風間さんが!!風間さんが!!」


「いいから前に走るんや!ここに固まってたらどちらにせよあんたは殺られてまうわ!隊長は大丈夫や。ちゃんとうちらの“死神“が付いとる。」


俺には花澤が何を言っているのかさっぱりわからなかった。何だよ“死神”って。不吉過ぎだろ。


「これは行けるわ。チャンスや。」


花澤はそう言って走りながら無線を取った。


『こちら第二小隊副長花澤から日向団長へ。敵影を5人確認。只今風間、月島の2名で交戦中。花澤、鳥海はこのまま敵フラッグに進みます。応援願います。』


『日向から第二小隊へ。花澤、鳥海には第一小隊を援護に向かわせる。風間、月島の援護には念のために花怜を向かわせた。健闘を祈る。』


月島…?月島の姿なんて見えなかっただろ。あそこに残っていたのは風間さん一人だけだ。


「月島先輩なんて居なかったっすよ!?風間さん一人だけです!戻りましょうよ!」


「大丈夫やて、美咲ちゃんはちゃんと居るよ。」


「例えそうだとしても、5対2ですよ!?勝てる訳がない!!」


「いい加減にせえ!!うちらは前に集中するんや!もうすぐ第一小隊も来るから!」


初めて花澤に怒られた。いつもの花澤とは雰囲気が違う。俺は少し気圧されて萎む。


「あっ…。ナツキ、ごめん。ちょっと興奮してもた。」


すると花澤は我に戻ったように謝った。


「大丈夫っす。取り乱してたのは俺っす…。とにかく今は……」


その時、俺は何とも言えないプレッシャーを感じた。左後方から何かの気配を感じる。俺はとっさに振り返るとそこには見たこともない大きな男が一人。距離は約3メートル。その手には大きな剣。


男は剣をこちらに向けて突き出した。


あっ…。死ぬ。


もう防御も回避も間に合わない。


俺は目を瞑った。




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