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この壊れた世界でナニヲオモフ  作者: 政吉
第一章 “仮初めの平和“
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セカイハ

重い瞼を強引に開ける。起床の時間だ。無意識のまま洗面所に向かう。顔を洗って歯を磨く。それから干されたままのYシャツに袖を通し、ふとカレンダーを見る。


「あ…昨日で研修終わったんだ…。」


四畳半の何もないモノクロの部屋を見渡す。床に散らばった資料は自らの責務を果たし沈黙している。どうやら昨日までの地獄の日々は俺の深層心理にまで影響を及ぼしているらしい。俺はそれを理解して少し笑った。


あれから一年の月日が流れた。とても短く感じる。俺はあの後、風間に連れられてとある施設に預けられた。もちろん両親は俺が出ていくと言った時は大反対した。それを推しきるのがどれほど大変だったかは俺だけが知っていればそれでいい。家を出た日から俺は両親に毎日電話をしている。今になって姉の気持ちが良くわかる。


たどり着いた施設は見るからに排他的な表情をしていた。俗世からの別れ。まるで刑務所のようだ。厳重な持ち物検査の上で、俺の携帯電話は一時的に没収されてしまった。その後とある部屋に案内された。小窓が2枚だけあるその部屋はまるで別の世界のように感じた。


そこで俺は様々な事を知った。今世界で起こっている事、姉が何をしていたのか、これから俺は何をすべきなのか。


近年、世界的な高度経済成長により、各国の経済格差は無くなってきている。つまり、ほぼすべての国が先進国となった訳だ。そうなれば皆が幸せかと言えば、それは大きな勘違いだ。あくまで表向きだけはそう見えるだけだ。実はそれに伴い、国際問題がより一層深刻になっているのである。今まで発展途上の国々が虐げられては我慢してきたことが、そうはいかなくなってしまったということだ。


そうして出来た戦争の種は、関係の無い国によって水を与えられる。こうなっては状況は好転しないらしい。


“負の連鎖”


当時はもういつ世界大戦が起こってもおかしくない状況だったそうだ。


そこで急遽国連で秘密裏に可決された法案がある。それが“少人数戦闘勝利国解決優先権”というものだった。


争いの元である双国が、それぞれ代表を20人選抜する。そしてその20人は、5つの戦闘競技からランダムに選ばれた競技で互いを競う。使える武器については規制があり、何でも持ち込みが可能というわけではない。例えば、手榴弾などの火薬、またはそれに酷似するものを使うのは、一切禁止されている。そして最終的にそれに勝利した国に問題解決の優先権が与えられるのだ。


各国はこぞって20人の精鋭を集めた。そして仮初めの世界平和の裏で殺し合いを続けてきた。


つまり姉は日本におけるその20人に選ばれたのだろう。


…そして死んだ。


だが何故死んだのかはまだわからない。何度も調べようとしたが、1年の研修期間中ではそれを知ることは出来なかった。特に現役20人と今までの死亡者の情報管理は固く、それを知るには研修の枠を出る必要があった。


枠を出ると言っても、只のデスクワークでは知ることは出来ないだろう。それは教官を見ていればわかる。なんせ、いくら現役20人の話を聞いても“教えられない”では無く“知らない”という答えしか帰ってこないのだ。知っているならば知っているなりの言葉の癖があるものだ。だが、教官からはそれは感じられなかった。ならば是が非でも代表に入る必要がある。



当初研修施設には37名の候補生が居た。陸上競技の元日本代表、ウエイトリフティングの記録保持者から現役自衛官に至るまで、様々な分野を代表する人たちだった。代表に入るにはこの中で総合成績優秀者上位3名に入る必要があるのだ。


体力測定や学力検査はもちろん、心理テストから身体精密検査、射撃練習から対人格闘術まで、朝から晩までその繰り返しだった。日曜日以外は毎日それを行い、その数値が採点の基準になる。もちろん、日曜日は休みではない。戦術や競技の細かい説明など、座学が夕方まで続く。キツいというレベルではない。たったの一週間で半数がリタイアした。


だがその中でも俺には自信があった。なにせ俺の家族には天才と呼ばれた姉がいたからだ。俺は姉には劣っていたが、その血と同じものが流れている。学力も体力にも自信がある。同じスタートラインならば誰にも負けない……筈だった。


全行程を終えた俺の成績点は2位だった。


首席には届かなかったが次のステージに進む事が出来た。特に成績が良かったのは対人格闘術の項目。俺はこの1年間組み手では誰にも負けなかった。


姉と俺は小学生の頃から合気道と空手を習っていた。姉は中学生の時には、すでに全国制覇を成し遂げ、すぐに引退してしまった。だが、俺はそうはいかない。同じく全国大会までは進めるものの、優勝したことは一度もない。中学生で全国大会に行けるのならば十分と、周囲の人は褒めてくれたが、俺はそう簡単に自分を納得させることは出来なかった。だから俺は止めなかった。高校に入って全国制覇をするまで、空手を続けた。対人格闘術の成績はその努力の結果である。


しかし総合順位は2位であった。納得出来る筈が無かった。


首席の男は対人格闘術は勿論として、俺よりも体力測定も学力テストも下なのだ。何故俺が次席なのか…それが理解出来なかった。


研修行程の修了式が終わった時、俺はその場を去ろうとする首席の男を呼び止めた。

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