ハンドウ
身体はいうことを聞いていない。ただ、感覚だけで戦っている。暴走しているとはいえ、傷み・衝撃などは伝わってくる訳で…。
「痛っ!?」
受け止めた拳の重さ。それは通常のそれとは違った。数年?いや、数十年?その拳は極めないと辿り着けない境地にあった。
『いくら能力が使えたとしても、筋力や体つきまでは同じにはなれない。お前は玄太郎にはなれんよ、トリウミ。』
レギナルドは俺の耳元でそう呟くと、そのまま突き飛ばした。
俺は受け身を取ると、そのまま体勢を立て直してすぐにレギナルドへ向けて走り出した。…だがその時だった。
ガクン
膝に違和感を覚える。その瞬間、頭が割れそうになるほどの傷みが俺を襲った。ふと意識が戻った。
「ぁぁぁあ!!??」
思わず頭を抱えて悶絶する。
『…オーバーヒートか。』
レギナルドはそう呟くと、腰からナイフを取り出す。そしてこちらに向かってゆっくりと歩き始めた。
そう、これが俺の能力の反動。無理をすればそのぶん自分の身体に負荷がかかる。まだ能力を使い始めて3分も経っていない筈なのに…それほど朝霧と里穂の能力は負荷が大きい能力ということなのだろうか。痛みと痛みの間隔で俺はそう結論を出した。
だが…ここで死ぬわけには……死ぬわけには……
俺はそれでももう一度能力の扉に手をかけた。それしか選択肢が残されていないのだから仕方ない。
その時、膝を着く俺の目の前でレギナルドが立ち止まった。目が合う。
死。
味わったことはない。死は一生のうちで1度しか経験出来ないものだから。だが直感でわかった。これが“死”なのだと。
『それがお前のいう意識か?“ハルカ”?』
レギナルドは俺の目を見つめながらそう言った。突然の事だった。混乱しながらも俺は目を見開いた。
『姉さんを……?何故姉さんを……お前はいったい…
?』
『…もういい。わかった、それ以上喋るな。』
レギナルドは俺の声をかき消すようにそう言うと、左手に握ったナイフを振りかぶった。
『えっ…?』
全ての時間が止まっているように感じた。考えは追い付かず、突然の攻撃にもどうやら対応出来ない。
その時だった。
レギナルドのナイフが俺の心臓の前で止まった。
『はっ…!はっ…!はっ…!』
心臓の鼓動と共に息が漏れる。汗がなぞるように頬を流れる。
ゆっくりレギナルドの目を見る。するとレギナルドは口を開いた。
『俺がコイツを殺す瞬間を待っているのか、ミサキ?』
レギナルドの口から出た言葉を聞いた俺は息を荒げながら後ろを振り返った。するとそこには無言のままこちらを見つめる月島の姿があった。
『…うん。だって…そうもしないと貴方は殺せない……から。』
月島は無表情のままそう言うと、ゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。
『あの頃から変わらんな、ミサキ。ま、そう教えたのも俺だがな…。』
レギナルドはそう答えると、ゆっくりとナイフを下ろした。瞬間、俺は目を泳がせながらその場で吐いた。
恐怖、痛み、緊張、全てから解き放たれたことが原因だろう。
『と言うことはやはり前線に居るのはオーバーアイか?』
レギナルドは首を傾げながら続けて口を開く。だが月島は何も答えなかった。何も言わず、普段は無気力な目に力を込めて見開いた。
見たこともない表情。戦いに集中しているのだろうか…。いや、違う、“そんな余裕がない”んだ。
俺はゴクリと息を飲んだ。