ソシテ
「なっ!?」
思わず声が漏れる。俺は確かに抜いた筈なんだ。完全に避けきった筈なのに何故ヤツは俺の後ろにピッタリ張り付いている?
先読みの能力の先を行く行動だ。こんなの想定外だ。
ふいに前を向く。既に200メートルは走っただろうか。前方に微かに菅野の姿が見えてくる。普段ならば大した距離ではないが…この状態ではあそこまで持つとは思えない。
どうする?どうすればいい?
今は俺一人だけ。孤独な戦い。すぐ背後には世界最強の男。
その時、俺が背負っていた鞄に男の手がかかった。
グイッ
俺はそのまま後ろに引っ張られ、倒れた。
『ならば戦うか?俺はいっこうに構わんが…。』
男は俺を見下しながらそう言うと目を細めて睨みをきかせた。
思考がフリーズする。戦うしか…ないのか?
息が荒くなる。緊張だろうか?今更ながら何故この男がここにいるのか疑問でしかない。中央戦線は既に崩壊してしまったのだろうか?
だとすれば花澤は……?
俺は歯をくいしばってゆっくりと立ち上がると、レギナルドに向けて口を開いた。
『なぁ最強、お前…ここに来るまでに誰か殺したのか?』
『…だったらどうなんだ?』
『いいから答えろよ!』
俺が口調を強めると、男はフッと口元を緩めた。
『どうだったかな…?いちいち殺した人間の事なんて覚えていなくてな。』
見え透いた嘘だった。多分こいつは誰も殺していない。俺の直感がそう言っている。ならば逃げるのが先決だ。
ここで一芝居打つことにする。
『そんなにこれが欲しいならくれてやる。だが…それは俺を倒してからにしてもらおうか?』
俺は腰からナイフを一本取り出すと、レギナルドに向けて構えた。
するとレギナルドは笑みを浮かべながら答えた。
『俺と同じぐらい嘘が下手くそだな、お前。…逃げるつもりだろ?』
『な、なんでそんなことがわかるんだよ!』
『本当に戦うならその日本刀を使うだろ?流石にわかるさ。』
単純なミスだった。嘘が下手なせいでこんなことになってしまうなんて思わなかった。冷や汗が垂れ始める。絶体絶命、もう逃げ場はないのか?
いや、ある。一つだけある。
“こいつよりも早く走ればいいんだ。”
俺は能力の扉に手をかけた。




