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この壊れた世界でナニヲオモフ  作者: 政吉
第一章 “仮初めの平和“
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ナカマ

涙の痕が枕に残る。泣き疲れて目が痛い。このままだと眠ってしまいそうなので、俺は部屋を出ることにした。午後のミーティングまではまだ少し時間はある。早めに行ってみよう。


…また場所聞いてないや。


俺は気付いた。さて、こうなると残された選択肢は限られる。俺はその中で一番ハードルが低いものを選ぶ。早速斜め前の202号室の扉をノックした。…が、返事はない。まさかもうミーティングに向かってしまったのだろうか。

…いや待て、部屋の中からは何やら音がする。これは…テレビか?扉に耳を近付けて音を聴く。俺は再びノックする。そして大きめに声を出した。


「つくし先輩?居ないんすか?」


返答はない。少し不安になって俺はドアノブを回す。鍵はかかっていない。


「不用心やなぁ。」


俺は一人で呟く。少し扉を開けて中を覗く。その部屋は女子の部屋とは思えない程の散らかり用だった。廊下には脱ぎ捨てられた服が散乱している。音の正体はやはりテレビだったようで、テレビショッピングの謳い文句が聞こえる。


良く耳を澄ますと誰かの寝息も聞こえる。これは確実に居る。俺は再び大きめに声を出した。


「つくし先輩!居ないんすか!!」


「…ふぁ!?あっ…!痛ったあ!!」


大きな音と共に振動が伝わる。何の音だ?少し経ってから花澤の声。


「誰?誰か居るの?」


「俺っす。ミーティングの場所、聞いてなくて。」


「そかそか!うち、言ってなかったね。シャワー浴びてから行くから、自分の部屋で待っててやー。」


「了解っす。」


俺が声をかけないと花澤は絶対遅刻していただろうと思う。本当に一度寝ると起きないタイプなのだろう。面倒だ。俺は部屋で携帯を弄りながらそう思った。


数分後に花澤は俺の部屋に現れた。


「ごめんごめん。お待たせ!」


「部屋の鍵、かかってなかったっすよ?」


「あー…。うち、実は外出する時以外は部屋に鍵するの禁止されてるんや。なんでかは知らんけど、隊長がそう言うんや。」


俺は大体察しはつくが、残念ながら花澤に自覚症状は無いらしい。俺は適当な返事でその話題を流す。


あと15分でミーティングの時間だ。そろそろ行かなくてはいけない。


「そろそろ行きましょうか。遅刻しちゃ不味いですし。」


「おっけー!ほな、いこか。」


宿舎エリアを抜けて5分程歩くと、花澤は右手に見える扉を指差す。そこには“第二小隊会議室”と手書きで書かれている。部屋を開けると、やはり風間と月島は既に居た。


「つくし、お前、間に合ったじゃないか!?」


風間は花澤を見て驚愕の表情を見せながらそう言った。月島は目を見開いて花澤を見つめる。花澤が間に合うのはそんなに奇跡なのか。俺は自分の功績を誇った。


「ま、まあね!うちだってやれば出来るんや。」


花澤は俺をチラチラ見ながら得意気に答えた。大丈夫ですよ、言いませんから。俺は心の中でそう言った。


ミーティングではチームワークについての勉強会を行った。俺が知らない小隊の連携や、声を出さないでも意志疎通が出来るよう作られたサインなど、覚える事は沢山ありそうだ。でも大丈夫、俺は昔から暗記には自信がある。10分もあれば全部覚えられる。風間は俺の飲み込みの早さに驚いていた。


3時間ほど続いたミーティングはすんなり終わった。問題があったと言えば、花澤が終止寝てたことと、月島が一言も喋らなかったことぐらいだろう。


「よし!今日はここまで。明日も今日と同じように朝のトレーニングからだ。それにしてもナツキ君、君の記憶力は凄いね。これも血筋かな? …さて、つくし。少し話があるから俺の部屋に来なさい。」


「えぇ!?うち?イヤヤ!堪忍やあ!兄ちゃん、堪忍してやー!!」


逃げようと席を立った花澤はすぐに風間に捕まる。そして引きずられるように部屋から連れ出されて行った。廊下では花澤の悲痛な叫びが響き渡る。


俺はふと月島を見る。月島はそれに気付くと、徐に口を開いた。


「…じゃあね。また…明日ね。」


久々に聞いた声。本当に何を考えているかわからない。俺は呼び止めるように言葉を投げた。


「あ!妹さん…。妹の花怜さんに会いました。元アメリカ陸軍の凄腕のスナイパーって聞いてます。もしかして先輩もそうなんですか?」


俺は月島の事が知りたかった。同じ小隊で戦う仲間として、少しでもこの溝を埋めたいと思った故の話題だった。


…だが答えはなかなか返ってこない。月島は目線を下に落としたままブリーズする。…処理落ちか?



「…違う…かな。」


どうやら違うらしい。この話題はあまり良くなかったかもしれない。月島はいつもよりも表情が固くなっている気がする。


沈黙。何も言葉が出てこない。俺の目は泳ぐ。音一つない、静寂な世界。まるで真空。俺は宇宙空間に放り出されたような感覚に陥った。


「…妹と…仲良くしてあげて…ね。」


月島はとても小さな声でその真空を切り裂き、表情を緩めた。俺はギリギリの所で窒息死を逃れた。


月島は首を傾げるとそのまま振り返り、ゆっくと部屋を出ていった。月島への話題としては妹の話をすればいいのか。俺の考えは結論に至った。


さて、今日の夕飯は何だろうか。食べ終えたら風間に昨日の事を聞いてみよう。そう決意して食堂へと向かった。


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