ヒトメボレ
…なんて美しいんだ。
地獄でしかなかった生活の中であの日、俺はとある人に恋をした。それは突然俺の前に女神が現れたような衝撃だった。茶色いショートカットの小さなその女性はまるで鳥のように宙を舞い、蜂のように俺に向かって刃を突き出して来る。
俺の生まれはドイツではない。イギリス生まれ、イギリス育ちだ。しかし、両親が離婚したことをきっかけに俺は15歳の時に母の故郷であるドイツに移住することになった。母方の実家はかなり裕福な家庭であったので、俺は英才教育を受けることが出来た。それにこのモデル体型に整った顔立ちなのだ。モテない筈もない。俺はドイツでなに不自由なく生活をしていたが、いくら欲しいものを手にいれても満たされることは無かった。
そんな時に俺はドイツの代表に招集されることになる。元々ドイツに対してあまり執着が無かった俺だったが、半分騙されて代表に入ってしまった。
最悪だった。もう二度と自由な生活が送れないのだ。俺はいつも頭を抱えていた。
俺が蜂鳥と出会ったのはそんな時だった。
こんなに強くて美しい女は見たことが無い。うちのチームには脳筋女しか居ないからな…。
そんな事を考えていたらいつの間にか俺は仰向けに地面に転がっていた。
「はよ降参してや。…出来れば殺したくないから。」
その女性は俺の顔の前にナイフを突き付けて日本語で何かを話始めた。だが俺にはもはや勝敗の事など頭に無かった。
『君の名前を教えてくれ!僕はポール、君に一目惚れしたんだ!』
俺は仰向けのままその女性に訴えかけた。するとその女性は明らかに疑問の表情をしながら首を傾げた。
「何言ってるんかわからんが、あんたがポールなのは辛うじてわかったわ。」
自分の名前を呼んだのがわかった俺は更に続けて訴えかけた。
『そう、ポールだ!ねぇ、よかったら今度二人で会えないかな?』
「そ、そーりー。だから何言ってるかわからんねん。」
どうやら断られてしまったらしい。日本語はわからないが、表情から察した。だがこんなことで諦められる訳がない。欲しいものは全部手に入れるんだ。俺は幼少の頃からそうしてきた。
『それじゃあ、もし次に君と戦ってその時に俺が勝てたらドイツでデートしてくれよ!それなら喜んでギブアップするよ。』
「おっ?ギブアップするんやな!おっけーおっけー!」
俺はその返答に笑顔になった。ナイフを突き付けていることなどすっかり忘れている。少し遅れて俺は手を上げて降参の意思を見せた。
それから俺は彼女に勝つ為に血の滲むような努力を続けた。その結果元々CCCランクだった俺はこの2年でAランクにまで登り詰めた。
「戦いの前、美容室に行った。君に会えるの、嬉しいからね。」
ポールはポケットから櫛を出すと、セットされた茶髪をそれで整え始めた。
「…こんな世界に入ってからモテ期が来ても嬉しくないわ。ええからはよ来なさいよ。そんなに時間があるわけじゃないんやから。」
花澤は溜め息を吐いてから武器を構えた。
するとポールは櫛をポケットに戻してから1メートル程の二本の小さな槍を取り出した。
「勝ちます!」
ポールは力強い表情でそう言うと、両手にそれを構えて動きを止めた。
…あの武器は危険やな。
花澤はあの武器を知っていた。菅野が練習で使っている所を一度だけ見たことがあるのだ。あれはショットジャベリン。手元のボタンを押すとバネによって槍先が30センチ飛び出してくる仕様の武器だ。その一撃は強力だが、一度飛び出すと槍先を戻すのに少し時間がかかる。かなりトリッキーな武器の為、実際に使っている人は今まで見たことが無い。
花澤は落ち着いてポールから距離を取る。するとポールは声をあげて走り始めた。
「来ないならこちらから行きます!」




