フタゴ
すると30メートル程離れた所に倒れてピクリとも動かない里穂とエレノアの姿があった。しかし朝霧は取り乱すことはしなかった。大きく息を吐いてから心を落ち着かせると、キッと二人の敵を睨み付けた。
『くふふっ。あれあれ?パートナーが死んだのにそんなに冷めてるの?意外と仮面夫婦なんだね?』
朝霧の目線に気付いた一人が声をあげると、もう一人も遅れて口を開いた。
『ぷふふっ。銃声がしても気付かないんだから心底どうでもいいって思ってたんじゃない?実は奥様が邪魔だったとか?』
『あっ、それあるね!アンドレ、きっとそれだよ!』
『そうでしょフランツ!もっと僕を誉めてよ!』
二人は妖し気に首を傾げながらピョンピョンと跳びはね始めた。あまりに似ている風貌に兄弟であることはすぐにわかったが、どことなく狂っている二人のやりとりに不気味さを感じる。朝霧はその姿を哀れみの表情で見ながらゆっくりと口を開いた。
『何時だって背中を預けてきた妻だ。あの程度でくたばる女じゃないのは俺が一番わかっている。それに俺は任されたんだ。ならば目の前の敵に集中するだけだろう。でないと後でアイツに怒鳴られるからな…。』
朝霧は頬から流れる血を拭ってから手甲を構えた。この二人のコンビネーションは通常のそれとは比べ物にならないほどの完成度を誇る。いくら朝霧のスーパータスカーをもってしても里穂のサポートが無ければ攻略するのに時間がかかる。だがもう朝霧にそんな時間は無かった。さっさと終わらせて妻を迎えに行く。冷静なのは表面だけだったのだ。
『くふふっ。面白いね、まだやる気らしいよ?あのおっさん。』
『ぷふふっ。なら僕たち双子の妙技をもう一回お見せしましょうか。』
二人はそう言ってから細く短い刀を腰から取り出し、朝霧に向かって重なるように走り始めた。
朝霧は熱い想いをグッと堪えて集中すると、脳をフル回転させて全てを網羅する。
朝霧が先頭を走る青髪のフランツの刀を左手で受け止めると、その後ろから赤髪のアンドレが飛び出してきた。スーパータスカーを持つ朝霧はアンドレの攻撃を難なく受け止めると、そのまま右手を滑らせるように動かして手首を掴んだ。
『げっ!?うそっ!?』
アンドレは苦い表情で声を出しだ。するとフランツはアンドレを助けようと朝霧の右手に向かって刀を突き出した。
ガキッ
しかし朝霧は左手一本でフランツの刀を弾き返した。その間に手首を掴まれていたアンドレの体は朝霧の怪力によって地面に叩き付けられる。あまりの衝撃にアンドレは口から血を吐いた。
弾き飛ばされていたフランツは急いでアンドレの救出に向かおうとするが、朝霧は全く隙を見せない。するとフランツは焦りながら声を荒げた。
『こっ…こらー!!今の流れは完全に僕たちの技が炸裂するやつだろ!!アンドレを離せっ!』
『…嫌だね。』
朝霧はそのままピクピクと痙攣するアンドレの心臓に鉈を振り降ろした。
ブシャ…
アンドレの体から血が吹き出した。
『かっ…あ……がが………』
アンドレは口をパクパクさせながら涙目でフランツを見ている。そして血に染まった手をプルプルと震わせながらフランツに差し出したが、スイッチが切れたようにその手はポトリと地面に落ちた。
『あっ…アンドレー!!…っ!貴様ー!!』
フランツは怒り狂ったように朝霧に向かって叫んだ。だがすぐに表情をピエロのように変えて妖しく笑い始めた。
『……とか言うとでも思った?くふふっ。これで双子ってレッテルは無くなったよ!晴れて僕は僕として認められるんだ!ありがとう英雄、今日から新しい僕が始まるよ。』
フランツは狂ったように笑い始めた。朝霧はそんなフランツを睨みながら口を開いた。
『…まだ戦う気があるのか?』
『いいや。今の貴方に勝てる程僕は強く無いからねっ。僕はリタイアだ。さっさとこの戦域からは出ていくよ。貴方だって早く奥さんの所に行きたいんだろ?』
フランツはそう答えると朝霧に背を向けて歩き始めた。朝霧は暫くその姿を確認した後、すぐに里穂の元へと走り始めた。近付くにつれて里穂の出血の酷さがよくわかった。
「里穂!」
朝霧は里穂を抱き抱えて呼んだ。すると里穂はゆっくりと目を開けてから小さく呟いた。
「…玄太郎………後ろ。」
里穂の声に朝霧は咄嗟に後ろに向けて手甲を振り上げた。
カンッ
金属音と共に朝霧の右手に衝撃が走る。振り返るとそこにはリタイアした筈のフランツの姿があった。
『…なんで見てないのにわかったんだよ?』
フランツは目を見開きながら声をあげた。
『…俺の妻はこの空間を把握しているんでね。悪いがチャンスは一度きりだ。』
朝霧は立ち上がりながらフランツに向けて突進する。まともにそれをくらったフランツはまるで人形のように地面に転がり落ちた。そして朝霧はそのまま鉈をフランツの首に向けて振り降ろした。
ブシュ…
フランツは意識を失う直前に涙目でアンドレを見つめていた。




