センキョウ
その頃、俺たち4人は無事切り離しを完了していた。
俺はオーダー通りスタートから600メートル地点で息を整えながら松本の帰りを待っていた。すぐ近くには開戦前に花怜が確認してくれた廃屋。その不気味さがどことなく俺の不安な心を煽る。
みんなは無事だろうか…?
只じっと待っているのが辛かった。まるで自分だけが安全地帯に居るような…そんな気がしたのだ。
別れ際に菅野は俺の頭を優しく撫でてくれた。その姿はあの日の風間に似ていた。
「くそっ。早く来てくれ!」
俺は独りで叫んだ。
一方ドイツ陣営では一人の男が静かに戦況を見極めていた。短髪赤毛に小柄な体型のこの男の名はルディガー。ドイツの団長であり、過去に日本と戦った時に力を示してた4人の一人である。奇抜な戦略で日本チームを苦しめた軍師でもある。
『前線は苦戦しているようだな。人数ではこちらの方が優勢と聞いていたんだがな…やはりオーバーアイか。だが日向、その程度で勝てる程ドイツは甘くはないぞ…。今回は俺たちが勝つ。』
ルディガーは口元を緩めながらそう呟いた。するとルディガーの言葉に呼応するように無線が鳴り響いた。
『レギナルドだ。作戦地点に到着した。これより実行に移すぞ。』
『了解だ。』
ルディガーは無線のボタンを離してから表情を引き締めた。そう、これからが本番なのだ。言うならば今までの戦いは前哨戦、例え前線が不利でもこれからの展開によっては十分に取り返せる。
その時、ルディガーの無線から再び声が響いた。
『こちらトランスポート隊、ラインハルトよりルディガー大尉へ。只今目標物を確保しました。これより帰還します。』
『了解した。迅速に頼むぞ。』
『了解しました。』
戦闘開始から10分後の事だった。ここでようやく目標物が動いた。そのタイミングは日本チームとほぼ同時であり、ここからの展開が勝負を左右する。
「飯倉より日向へ!目標物は無事確保した。これから戻るぜっ!」
「了解です。お気をつけて。」
日向は飯倉との無線を終えるとすぐにチャンネルを変えて無線を飛ばした。
「鳥海、そろそろだ。頼んだぞ。」
「…ええ。わかってます。」
突然イアホンから聞こえた日向の声に驚きながらも俺は平然を装って返答した。
日向は無線を終えると腕を組んで空を見上げた。静寂だった。今が戦闘中とは思えない程澄んだ空だった。日向は小さく息を吐いてから目線を戻して花怜の肩を叩いた。すると花怜はゆっくりと振り向いて表情を引き締めた。
「花怜、いけるな?無理だと思ったらすぐに帰ってくるんだ。」
日向の言葉に花怜は小さく頷いた。そして持っていたハンドガンを本田に渡した。本田はそれを受けとると意気揚々と花怜の肩を叩いた。
「はっはっは!私に任せておけば問題ない!」
すると花怜はそんな本田に優しく微笑みかけてから走り始めた。
日向は今回勝利の為にいくつかの仕掛けを用意していた。ドイツと真っ向から殴り合いの勝負をしても勝てないということをわかっていたのだ。
「がっ……ごほっ。」
赤黒い血が地面に溢れ落ちた。朝霧は口から血を流しながら地面に膝をついた。ここまで15分間、朝霧はAランカー二人をたった一人で抑えていたのだ。その朝霧の目の前には二人の男が立っていた。
『ねぇねぇ兄ちゃん、どうするどうする?』
『これが伝説の英雄なんだねぇ。まさか一人で僕たちを抑えるとは思わなかったよぉ。』
『ねぇ兄ちゃん、話聞いてる?』
『さて弟よ、これからどうしてやろうか?』
『…やっぱり聞いてなかったんだね。』
『なんの話だ、弟よ…?』
二人の男は揉めるように言い合いを始めた。朝霧はその隙になんとかと立ち上がると当たりを見回した。




