レッセイ
里穂は右腕から血を流しながら走りはじめた。まるで飛行機雲のように里穂が進んだ痕には血が尾を引いている。
エレノアは半月刀を構えて表情を引き締めた。
ガキッ!ガキッ!
「あははっ!死ねっ死ねっ!!」
里穂は刀を続けて振るう。その動きは今までの攻撃のスピードを軽く凌駕していた。エレノアは防御だけにに集中することで何とか里穂の攻撃を防いでいた。
『くっ!一体なんなのよ!?』
エレノアは思わず声をあげた。だが里穂は攻撃の手を止めることはしなかった。舌を出してエレノアを挑発するようおどけて見せている。
エレノアは防御しながら里穂の目に半月刀で太陽の光を反射させた。すると目を見開いていた里穂の動きが一瞬鈍る。エレノアはその隙を突いて再び刀を振るった。
ポタッ…ポタッ…
里穂は左腿に違和感を覚えて左手で確認をする。見るとその手は真っ赤に染まっていた。
「…あれぇ?血だ。あっはっはっは!切られてんじゃん!」
里穂は血がべっとり付着した左手で頬を撫でた。
『いくら動きが速くなっても無駄よ。太陽が出てる限り私に勝つことは出来ないわ!』
『何それ?勝利宣言ってやつぅ?バッカじゃないのぉー?フヒヒッ…さっさと死ねよブス。』
『…体だけじゃなくて頭まで餓鬼になっちゃったみたいね。だったらいいわ、もう終わらせましょう。』
エレノアはそう言うと、目を細めて里穂を睨んだ。吹きつける風はエレノアの金色の髪を揺らし、太陽は髪を輝かせている。
数秒後にエレノアは満を持して走り始めた。里穂は一度黙って目を閉じてから体制を低くして刀を構えた。
だがエレノアの激しい攻撃を受け止めることは出来なかった。流れるように攻撃をしながら器用に太陽の光を里穂の目に集めているのだ。里穂の身体の至る所から血が滲み始める。
「あははっ!なんかフラフラしてきたわっ…」
遂に我慢出来なくなった里穂はエレノアから逃げるように背中を向けて走り始める。
『逃がさない!』
エレノアは里穂の後を追った。里穂は既に満身創痍だ。左足を引きずりながら何とか足を前に進めるが、すぐにエレノアに追い付かれてしまった。
半月刀が怪しく光を放ちながら里穂の背中へ向かっていく。
カンッ!
里穂は振り返りながらエレノアの刀を受け止める。と同時に二人は目を合わせた。
『いい加減諦めなよ!…あんたのそんな惨めな姿は見たくないわ。降参するなら命までは取らないから…』
エレノアは憐れみの目で里穂に言った。だが里穂は無言のままその言葉に反応することは無かった。エレノアは唇を噛み締めると、半月刀の角度を変え始める。
里穂は目を眩ませて再び隙を見せた。
ガチャン…
エレノアは里穂の刀を弾き飛ばすと、そのまま体当りをする。里穂の小さな体は宙を舞ってから地面に倒れた。
「ゲホッゲホッ…ゴボッ……」
受け身を取り損ねた里穂は咳をしながら薄目を開いてエレノアを見上げた。エレノアは悲しげな表情をしながら止めを差す為に半月刀を突き出して走り始めていた。
里穂はここで死ぬわけにはいかなかった。娘の為にも旦那の為にも…。こんなところで諦める訳にはいかない。里穂の目はまだ死んでいなかった。




