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この壊れた世界でナニヲオモフ  作者: 政吉
第二章 “痕に残る者”
189/209

カットウ

「てめぇは俺の名を世界に轟かせる為の踏み台だ。大人しく殺されろよ?」


竜胆はそう言って右手の小太刀を前に付き出した。だが相手に日本語がわかる訳も無く、敵は竜胆を無視して傷口を押さえている。だが竜胆は臆すること無くニヤリと笑ってから続けて口を開いた。


「はっ!通じねぇなら俺様が特別に英語で言ってやるよ。アイ、キル、ユー!おーけー?」


すると竜胆の“日本語英語”を聞いた敵は突然笑い始めた。そして胸元からドックタグを取り出して話を始める。


『あーっはっはっは!戦場でそんな風に話しかけられた事なんて今まで無かったよ。君はなかなか面白いヤツだね。折角だから礼儀を尽くしてあげよう。…俺の名はレオン、ランクはAだ。今から君を殺す者だよ。』


そう言った男のドックタグの色は赤色に輝いている。


「おっ…?なんか笑ってんな。…ちゃんと通じてるじゃねーか!よしっ、さっさと始めようぜ!」


だが当然言葉が通じない二人の会話が噛み合う筈もなく…


『何で君は俺が隠れている場所がわかったんだい?見ていた訳ではないだろう?』


レオンはジェスチャーを交えながら話始めた。まるで迷子の外国人に駅を教える心優しい青年のようだ。だが二人がこれからやろうとしていることは殺し合い。だからこそこの光景は違和感でしか無かった。


「ぁ?な、何言ってんだよ…?この建物がどうかしたのか?」


竜胆はそう答えながらも暫くの間武器を構えていた。だがいっこうに動こうとしないレオンを見て遂に自らも構えを解いて首を傾げた。


するとレオンは馬鹿にするようにゆっくりと説明を始めた。


『だ、か、ら!この建物、俺が、入ってただろ?何で、君は、わかったの?…俺の言ってる意味わかる?』


「…何を必死に言ってんだコイツは?まさか…この建物の中で戦いてぇのか!?ノーノー!こんなジメジメした所、入りたくねぇよ。」


竜胆は首を横に振りながら渋い表情を見せた。どうやらそれは半端な英語の挑発よりも効いたらしく、レオンは苛立ちを露にし始めた。


『…挑発してきたくせに英語わからないんだね。前言撤回だ、全然面白くないよ君。さっさと死んでくれ。』


「ノーイングリッシュ、ノーアメリカン!」


レオンが呆れ気味にそう言うと、竜胆はどこかで聞いたことがあるようなフレーズでそれをシャットアウトした。こうなっては何を言っても聞く耳を持たなそうだ。


残念ながら竜胆は学生の時から特に英語の成績が悪かった。それは代表に入ってからも変わることは無く…。そして今に至るという訳だ。


レオンはギュッと口を結ぶと、背中の鞘から刀身が1.5メートルはあるかという大剣を取り出した。映画でも見たことがあるような西洋の両刃剣だ。まるで鏡のような銀色の刀身に自身の姿が映っている。


「Sprechen über.Komm her samurai Junge!」


ここでレオンは英語を使うことを止めた。わからない相手にわざわざ英語を使う必要は無いと判断したのだろう。


だが竜胆はドイツ語と英語の違いすら聞き取れていなかった。それどころか唯一聞き取れた“サムライ”という言葉に反応して笑顔を見せた。


「いいねいいねぇ!期待通りサムライの実力ってヤツを見せてやるよ!そんじゃいくぜっ!」


そう言うと竜胆は小太刀を構えながら走り始めた。それに反応してレオンも剣を構えた。


興奮した面持ちの竜胆だったが、実は内心はクールだった。正面から攻撃に行けばあの両刃剣の餌食になるのは目に見えていた。なにせ1.5メートルもあるレオンの剣に対して竜胆の小太刀の長さは50センチしかないのだ。


…とはいえ相手が“普通の敵”ならばそんなハンデがあっても竜胆は簡単に勝つことが出来るだろう。だが今回の相手は恐らく“普通”ではない。Aランクのレオンが放つオーラに竜胆は只ならぬ気配を感じていた。


竜胆はレオンの攻撃範囲ギリギリで進行方向を右に変え、回り込むように走り始めた。


…あの剣の大きさからして多分片手では振れねぇ筈だ。


竜胆は渦を巻くようにレオンに迫っていく。するとレオンはそれに釣られるように両手で剣を横に振り始める。その時、竜胆はそれを待っていたかのように剣に向かって進行方向を変えた。


カンッ


金属同士がぶつかる音が辺りに鳴り響く。


「はっ!Aランクってもずいぶん単純じゃねーの!」


なんと竜胆は左手の小太刀に額を当ててレオンの攻撃を弾いていた。だがその衝撃により竜胆の額からは血がポタポタと垂れてる。


両手持ち武器は何と言ってもその攻撃力が最大のメリットである。だがそれは同時にデメリットにもなり得るのだ。もし両手に大量の荷物を持っている状態で何者かに攻撃されたらどうなるのかは誰にでも想像がつくだろう。だから竜胆はどうしても片手でレオンの攻撃を防ぐ必要があったのだ。


読み通りの展開に、竜胆は残った右手の小太刀をレオンの左脇腹に向かって突き出し始める。だがここで竜胆はレオンの姿に何らかの違和感を感じた。


「…はっ!?」


なんと竜胆がそれまで“左脇腹”だと思っていたものは“右脇腹”だったのだ。


と同時に竜胆の聴覚は激しい風切り音を感じ取っていた。咄嗟に右手の小太刀をその風切り音のする方向へ向ける。すると音に遅れて凄まじい衝撃が竜胆を襲った。


バキッ


竜胆の体は右手の小太刀ごと吹っ飛んだ。地面に体を擦り付けながらも何とか体制を立て直した竜胆はレオンを睨み付ける。


あの瞬間、レオンは竜胆の左小太刀の反動を利用して逆回転に攻撃を繰り出していた。だからあの一瞬で体の向きが変わっていたのだ。


「ペッ…。クソ野郎が。」


竜胆は口に溜まった血を地面に吐き捨ててから小さく呟いた。


「Auf dieser Ebene gewinnen würde?」


レオンは馬鹿にしたように微笑みながら剣を地面に突き刺して竜胆を見つめていた。


「何言ってんのかわかんねぇよ。…別にわかろうとも思わねぇけどな。」


竜胆は袖で口を拭ってから立ち上がった。手元に残っているのは左手に持っていた小太刀だけ。右手に持っていた小太刀は衝撃でどこかへ飛んでいってしまったらしい。


「でも…どうであれ俺の前に立ちはだかるなら超えなきゃならねぇ。てめぇは俺の最強への道にゃ丁度いい高さの壁だぜ。…おーけーおーけー、アイキルユー。」


竜胆はそう言って口元を緩めると小太刀を右手に持ち替えて構えた。

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