ウンメイ
ピッピッピッピッ…
何処からともなくカウントを告げる音が聞こえ始めた。この音は開始3分前から鳴るらしい。間もなく殺し合いが始まるのだ。
未だに不安が払拭しきれていない俺がキョロキョロと辺りを見渡すと、朝霧と目が合った。朝霧は俺に何かを訴えるようにジッと見つめてくる。すると隣に立っていた里穂が朝霧の脇腹に肘打ちをする。
「バカっ!ナツキにプレッシャーかけんなっ!」
「す、すまん。」
いつも通りの掛け合いに俺の表情が緩んだ。そうだ、俺はこの二人の弟子でもあるんだ。自分を信じなくてはいけない。
大きく息を吐いた。心を水面のように落ち着かせる。続いて左の花澤と目が合った。花澤は屈伸運動をしながら俺に笑顔を見せた。“大丈夫”と言わんばかりのその表情に俺の口元はさらに緩んだ。
そうだ。大丈夫だ。自分に任せられた仕事をしっかり遂行するんだ。
まるでネズミ花火のように意識が散らばる。既に不安なのか強気なのか自分でもわからない。でも…やるしかないんだ。行ってくるよ、姉さん。
ピッピッピッピッピーーstart
遂にその時はやって来た。合図と同時にメンバーは走り始める。
俺たちは飯倉を先頭に走った。一歩一歩足を交互に動かしていく。今回は大丈夫だ。ちゃんと足は動く。廃屋の隙間を抜けてどんどん前へと進んでいく。
重要なのはペース配分だ。走る距離が長い飯倉は最初からハイペースで走ることはない。俺でも付いていけるペースだ。
開けた畑のような場所に出た。これなら200メートル隣まで見渡せる。俺は首を横に向けた。小さくだが確実に見える。あれがドイツメンバーだ。俺は更に目を凝らす。
…ん?あれは…?
俺は思わず声をあげた。
「き、来てます!ドイツメンバーがこちらに向かってきてます!」
だが3人は全く焦ることは無かった。それどころか横すら見ること無く真っ直ぐ前を見て走っている。
「どちらにせよこちらには追い付かないさ。今俺たちは目標物の確保に全力を注げばいいんだ!」
菅野は息を吐く合間に言葉を並べてくれた。すると俺の背後から声がかかった。
「アイツらの相手は俺たちに任せろ!いくぞ、中央を死守するんだ。」
俺たちを追うように後ろに展開していた高橋はそう言って離れ始めた。花澤は離れ際に声を張り上げる。
「ナツキ、また後でね!絶対絶対…また後でやからね!」
「言葉になってないっすよつくし先輩!?俺は大丈夫っす。先輩こそお気を付けて!」
寂しかった。言葉ではこう答えたものの本心は花澤と一緒に居たかった。だがそうも言ってられない。俺に任された仕事をこなすんだ。
「ナツキ君、気をつけるんじゃぞー。何するかわからんが失敗せんでなー。」
藤代は離れ際にそう言って小さく手を振った。意味深な藤代の言葉に反応する余裕が無かった俺は雑に返事だけする。中央メンバーと別れた俺たちは真っ直ぐ前を見据えて走り続けた。
同刻、スタート地点から左に100メートル地点では最初の戦闘が始まろうとしていた。ドイツの前線メンバーは女性を先頭にこちらに進んでくる。その数5人。人数はこちらの方が少ないのだ。すると里穂はそれを確認してから声をあげた。
「あれは…エレノア!?玄太郎!!他のメンバーは任せるわ、アタシがエレノアを抑える!!」
「承知した。女越、竜胆ここで迎撃するぞ。後ろには抜かせるなよ!」
朝霧は里穂の言葉に答えると、残りの二人に指示を出した。
「はっ!当たり前だろーが!誰にものを言ってんだよっ!」
竜胆は歯を見せて笑った。朝霧相手でも竜胆の態度は変わらないのだ。
「…めんどくさいけど仕方ないねぇ~。」
竜胆に続けて女越が小さく呟いた。その手にはバンテージを巻いており、動きやすいように迷彩服には余計な物を付けていなかった。
「まさかエレノアが前線に来るとはね…。」
里穂はそう呟きながら独りで先行すると、真っ直ぐエレノアに向かって走り出した。
実はドイツとの戦いはこれが初めてではない。以前一度だけ日本はドイツと戦った事があるのだ。だがその頃はまだドイツは日本よりも世界ランクが低く、戦力もさほど脅威ではなかった。だからその時は日本チームは勝利することが出来たんだ。
しかし、その時に特に手を焼いた敵が4人存在した。その一人が里穂の目の前に居るエレノア。そのランクは現在AAAなのである。
里穂は刀を構えてエレノアに向けて振りだした。
ガキッ
エレノアは里穂の攻撃を大きく湾曲した刀で受け止めた。それは太陽の光を反射させて、まるで半月のような妖しい輝きを見せていた。
『久しぶりじゃない、エレノア!』
里穂が英語でそう言うと、エレノハは里穂から目を逸らしながら小さく呟いた。
『…またこのガキんちょの相手なのね。』
『はぁ!?』
里穂とエレノアは鍔迫り合いをしながら言い争いを始める。だがその隙を狙って他のドイツメンバー2人が里穂を囲むように攻撃を始めた。
『そう簡単にはいかないよ。こっちは妻に任されたんでね。』
その攻撃は朝霧の手甲によって全て防がれてしまった。二人は目を大きく開けて驚きの表情を見せた。だがドイツメンバーはその3人だけではない。残りの二人は朝霧の横を抜けて左右に展開した。
「朝霧隊長に怒られちゃうからねぇ~。抜かせる訳にはいかないんだよ~。」
女越が左に展開した一人の前に立ち塞がった。すると相手は観念したようにレイピアを鞘から抜いた。
一方右に展開した敵は廃屋の中に隠れて息を潜める。
「わりぃけど俺にそれは通用しねぇ。」
竜胆は朽ちた空き家の木壁に向けて小太刀を突き刺した。すると空き家の中から転がり出るように敵が飛び出してきた。その腕からはポタポタと鮮血が垂れていた。
そう、竜胆の耳の前では“隠れる”という行為は無意味なのだ。
「ちっ…浅かったか。」
竜胆は両手の小太刀を構えた。




