サイシュウカクニン
テントの外に出た俺はキョロキョロと辺りを見渡すと、早速竜胆の隣に座る花怜を発見した。花怜は珍しく黒い迷彩服を着ていたから一瞬月島と見間違えてしまった。
うぇ…なんで花怜の隣にアイツが居るんだよ…。
一瞬躊躇した。でもアイツが居るからって俺の考えを後回しにするのもおかしな話だ。アイツに左右されるなんてこっちから願い下げだ。
俺はゆっくりと花怜の元へと向かった。
「…鳥海ぃ何か用かよ?」
すると竜胆は俺を“見る前に”そう言ってからこちらに振り向いた。俺はその仕草に違和感を覚えた。確かに竜胆は俺を一度も見なかった筈なのに何故それが俺だとわかったんだ?
だが質問するつもりは無い。今はそんな事を気にしている場合ではないのだ。
「用があるのは竜胆じゃないよ。ってかお前が誰かと一緒に居るなんて珍しいな。」
「別に俺は一緒に居るつもりはねぇんだよ。こいつが勝手に隣に居るだけだ。…そんじゃあな。」
竜胆はそう答えると一人で立ち上がった。しかし花怜に袖をギュッと掴まれてバランスを崩した。
「…離せ。」
竜胆が鋭い切れ味の言葉でそう言う。
こりゃマズイぞ…?
だが花怜は悲しそうな表情のまま袖を離そうとはしなかった。しばらく二人は目を合わせて固まっていたが、竜胆は諦めたように溜め息を吐いた。
「…はぁ。わかったよ。俺もここに居ればいいんだな…。」
…は?
俺は眉間にシワを寄せて口を開けた。何が起こった?まさかあの竜胆が素直に誰かの言うことを聞くとは思ってなかったから…。
「っーことだ。わりぃけど俺もここに居させてもらうわ。まぁ、気にせず勝手に話進めてくれ。」
竜胆は再び腰を下ろすとそう言ってふてくさり始めた。その隣で花怜は満足そうな表情をしている。
何なんだこの二人は?
意味がわからなかったが俺は我にかえって質問を始めた。このまま話を逸らされたんじゃ時間が無くなってしまう。
「あの…花怜さんにお願いがあるんすけど、ここから目標物までのルートって花怜さんの目で見ることは出来ますか?」
すると花怜は俺の目をジッと見つめてから勢い良く頷いた。そして立ち上がると敬礼のように額に手を当てて確認し始めた。
「どうっすかね?俺たちが走るにあたって何か障害になるようなものはありますか?」
花怜は遠くをジッと見つめながら小さく首を横に振った。
「そうっすか…良かったっす。あと一つ確認して欲しいんすけど、中間地点のどこかに人が隠れられそうな小屋とか家とかってここから見えますか?」
花怜は俺の質問に今度は目を細めながら小さく頷いた。そして右手の人指し指を立てて見せた。
「…一棟だけあるってことっすか?」
確実な意味がわからない俺は探るようにそう言うと花怜は大きく頷いた。
なるほどね…。どうやらその建物が俺にとってはポイントになりそうだ。多分“あっち”もそれを望んでいるだろうし…。
「ありがとうございます!助かりました。」
俺は自己完結して話を終わらせた。花怜はニコッと笑って再びその場に座ったが、隣に座っていた竜胆は黙って俺を横目に見ている。
…バレる訳にはいかない。
俺は足早にその場を後にした。
すると前方から準備を終えてテントから出てくる菅野と目があった。菅野はいつもと違ってかなり軽装だ。槍も刀もない。背中に二つの小さな鎌を持っているだけだった。
「おっ!ちょうどいいな!そろそろ最終確認の時間なんだ。飯倉隊長の所に行くよ。」
「りょーかいっす。」
これから向かうのは運び屋4人による最終確認だ。俺は菅野の後に続いてタバコの煙をプカプカと浮かべる飯倉の元へと向かった。そこには松本の姿もあった。
「おうっ!揃ったな!そんじゃ飽きるほど聞いた最終確認を始めるとするかね。」
飯倉は俺たちが来たことを確認するとタバコの火を消してからそう言って地図を広げた。俺たちはその地図を囲むように座った。
「まずスタートと同時に1キロ先の目標物へ向かって移動を開始する。スタートから300メートル地点で最初に菅野を切り離す。次に鳥海が600メートル地点、松本が800メートル地点と続いて切り離しだ。んで、最後に残った俺が目標物を確保するって訳だ。俺は目標物を鞄に入れてから800メートル地点の松本にそれを渡す。松本は600メートル地点の鳥海へ、鳥海は300メートル地点の菅野へと目標物を渡していくんだ。」
飯倉は地図をペンでなぞりながら丁寧に説明していく。簡単に言えばリレーって訳だ。この中では一番長く走る飯倉がキツいように見えるが、実は一番安全な役回りでもある。なぜなら目標物を確保する地点に敵は現れないからだ。平行に並んだ敵が同時にスタートするのだから真っ直ぐ1キロ先の目標物地点に敵はどう考えても間に合わないのだ。
だからこそ飯倉は運び屋に全脚力を注ぐのだ。飯倉にはその力がある。別に文句がある訳ではない。
「俺たちのサポートには高橋、花澤、藤代の3人が入る予定だが常に一緒に居る訳じゃねぇ。あくまであの3人は中央地点の敵を塞き止める役割だからな。つまり俺たち4人は自分で判断して動かなくてはいけないって事だ。相手はあのドイツだ。どんなイレギュラーが起こってもおかしくねぇ。だからこそその場の“正しい判断”はお前たち自身でするんだぜ?」
飯倉はそう言って俺たちを見渡した。俺にはまるでそれが“信じている”と言っているように思えた。
わかっている。もちろん俺だって全力を尽くすさ。誰も死ぬ前に終わらせればいいだけなんだから…。
「よし。そろそろ時間だ。行こうぜ!」
飯倉は地図を畳ながら勢い良くそう言った。俺たちはそれに応えるように大きな返事をする。
時刻は間もなく午後1時30分になろうかというところ。俺たちの大きな声を聞いてメンバーたちはスタート地点へと歩き始めた。
誰も死なせない。俺はこの力でみんなを守るんだ。手は震えていない。俺は拳を握りしめる。そんな俺の肩に菅野が手を置いた。
歩いて5分程の所にスタート地点はあった。そこには大きな日本の国旗が掲げられていた。見るとその旗元には不思議な丸い窪みがある機械が設置されていた。多分これが目標物を設置する機械なのだろう。ということは目標物の形って…
「無線のチャンネルの確認は終わったな?みんな、予定通り頼むよ。」
日向の言葉に皆が覚悟を決める。




