アビリティ
クシムルンから西に30分程走った所にその廃村はあった。朝10時にクシムルンを出発した俺たちはバスでここまでやって来た訳で…。
異様な雰囲気が漂う。流石は廃村だ。人が居ない村は不気味さを前面に押し出している。建物の中には深い闇が広がっている。もし敵が建物に隠れられたなら見つけることは不可能に近いだろう。
だが見た所建物の数は疎らのようだ。辺りには片手で数えられるぐらいしか見えない。更にその半数は建物自体が半壊しており、とても中に入れるような状態ではないだろう。
「ナツキ、あっちのテントで着替えられるみたいだ。行こう。」
俺がジッとフィールドを眺めていると、背後から菅野に呼ばれた。自分が走るルートを確認しておきたかったんだが…ここからだと流石に1キロ先までは見えないな。
「…今行くっす。」
俺は名残惜しくも着替える為にテントへと向かった。
俺はいつもの迷彩服に着替えてから腰に脇差しとナイフを装備した。今回俺はハンドガンの使用はしない。チーム内の銃は全て花怜と本田に集められるらしい。…残念ながら俺には理由が良くわからないんだけどね。
とは言え責めて理由ぐらいは知りたい。俺は着替えを終えてから菅野に話を聞いた。
「“オーバーアイ”ってなんなんすかね?今回の戦闘の要は花怜さんの“目”って言ってましたけど…。」
「実は俺もその“オーバーアイ”ってのは良くわからないんだけど、でも花怜の目については教える事は出来るよ。」
菅野は俺を見ることなく、戦闘に持っていく自らの武器を選定しながらも答えてくれた。
「花怜の視力は5.0あるんだ。だからスコープ無しのハンドガンでも狙撃する事が出来るんだよ。ま、それでも視力だけでは狙撃は成功しない。あいつの米軍時代に培ったスナイパーとしての経験がそれを実現させてるんだよ。」
「5.0!?そんな人間が居るんですか!?」
「あぁ、あいつの能力は“アビリティ”だからな。」
「…アビリティ?」
俺は菅野の説明に口を開いたまま首を傾げた。すると菅野は武器の選定を中断してから俺の方に顔を向けた。
「里穂さんに習っただろ?“アビリティ”はリミットオーバーでしか再現不可能なもの。つまりは先天的な能力ってことだ。それに対して俺の能力みたいなものを“スキル”って言うんだよ。自ら努力して得た能力って事だね。」
「里穂さんはそんな言葉で説明してくれなかったっすよ…?」
「いや、英単語の意味で考えれば大体わかるだろ?」
「…そ、そうっすよね。………すんません。」
菅野は横目に俺を見つめる。明らかに疑惑の目だ。そんな英単語の細かい意味の違いなんて知らないよ…。やべー…姉さんだったらきっとわかったんだろうな。俺は頭をポリポリと掻いた。
それにしても“先天的な能力”か…。
俺が知っている限りでは里穂の空間把握能力、朝霧のスーパータスカー、そして花怜の視力。つまりはこれらを使えば俺の身体に何らかの副作用が現れるんだよな…。
…ん?
俺はここであることを思い付いた。
それならあの人に聞けば俺が知りたかった事を教えてもらえるかもしれない。
「菅野さん、先に行ってますね!」
「お、おう。」
俺は首に新しいドックタグを付けてからテントを飛び出した。菅野は突然焦り始めた俺を不思議そうに眺めていた。




