ヘイワナマチ
俺たちはカザフスタン首都アスタナから西に600キロの所にある都市クシムルンに向かっていた。飛行機の乗り継ぎとバスでの移動をあわせて4日もかかるのだ。最後のバスに乗っている時には既にメンバー全員の疲労はピークに達していた。
「ナツキ…今何時?」
菅野は眠い目を擦りながら大きく欠伸をする。ロシアを経由した時差ボケがまだ抜けていないのだ。だがそれは俺も同じだ。俺はぐったりと項垂れながら学生の時に買った電波時計を薄目で見る。
「午前10時24分20秒っす。」
「そろそろ着くな…。……ふあぁ…。」
菅野は言葉ではそう言いながらも再び欠伸をしながら額に上げていたアイマスクを下げた。俺はそんな菅野を横目に見てから窓の外に目をやった。
木々が生い茂る草原の真ん中、テレビで見た北海道の映像のように道は地平線まで続いている。雄大過ぎる自然に囲まれた俺は孤独だった。まるで世界の終点に向かっているように思えたんだ。
それから30分程走った所でクシムルンに到着した。
「あっ腰痛っ…。」
立ち上がった菅野はバスの椅子に寄りかかりながら腰に手を当てた。俺はそんな菅野の後ろに付いてバスを降りた。
街は緑で溢れていた。見た限り辺りに2階建て以上の建物は見当たらない。田舎という単語を当てはめるに相応しい街並みだ。
「今日はここに泊まるんすよね。…何もないっすけど…。」
「流石に宿ぐらいはちゃんとしてんだろ?」
菅野は腰を伸ばしながらそう答えた。すると最後にバスから降りてきた日向は声を上げた。
「ふぁぁ…。長旅御苦労さん、そんじゃ宿に行こうかね。」
日向は現地に先入りしていたスタッフに軽く挨拶してからその後を追った。
案内された建物は宿と呼ぶに似つかわしくない外観をしていた。例えるならば地区の公民館。平屋建てのここは多分この街で一番大きな建物なのではなかろうか?
「うぇぇ…マジっすか?」
「宿…ではないな、これは。」
思わず不満の声を上げた俺に呼応するように菅野は目を丸くする。
中に入るとそこには広いフローリングの空間にパーテーションで仕切られた簡素な個室が用意されていた。
「二人一組で一部屋を使ってくれ。夜8時にはミーティングを始めるからそれまでは自由時間だ。食堂は6時から8時まで外にテントが設営されるからそれを利用するんだぞー。それじゃ解散~。」
日向は眠そうな顔でそう言ってから一番大きな部屋に入っていった。
「菅野さん、折角なんでどっか行きましょうよ。」
「…いや、悪いけど休ませてくれ。長旅でもう体が限界なんだ。」
「そうっすか…。じゃあ俺いってきますね!」
最後の一日かもしれないのだ。そう思うとじっとしているのが勿体ないような気がして…。俺は菅野を置いて個室から出ていった。
宿から出ると高い高い太陽が俺を迎えてくれた。寒いのか暑いのかよく分からない気温だ。俺は意気揚々と外へと飛び出した。
人一人歩いていない街を見て回る。平和だ。俺の居る世界とは無縁の街。見る人によっては不釣り合いな光景なんだろうな。
…ん?
ふとタバコの臭いが俺の鼻を刺激する。目線を前に戻すとそこには路上喫煙をするチンピラの姿があった。




