タクサレ
独りになるのが怖かった。死ぬのが怖かった。
メンバーはそれぞれ思い思いの時間を過ごしていた。俺は独りベッドで横になる。
不安しかなかった。
配られたドイツのメンバーリストにはそれぞれのランクが表記されていた。見るとドイツメンバー全員がAランクオーバーだった。
そんなチームに勝てるのか?
その前に“生き残る”ことが出来るのか?
考えれば考える程体が芯から震えて止まらなくなった。過去、戦争へ向かう兵士たちは皆こういう気持ちだったのだろうか?かの有名なノルマンディー上陸作戦では戦闘前から皆が“死”を覚悟していたというが…
俺にはそんな風に割り切る事は出来ない。
心臓をわしづかみされたように苦しくなる。
「嫌だ。嫌だ。嫌だ。」
布団に潜って呟いたその時だった。
コンコンコン
ドアがノックされる音が微かに聞こえた。俺は布団から飛び出て玄関へと向かった。
「誰っすか?」
俺は扉越しに声をかける。
「うちや。今ええかな?」
扉の先からは聞き慣れた花澤の声がした。俺はすぐに扉を開けた。
「どうしたんすか?…まだ寝てなかったんすね。」
「入ってもええ?出発前に話しておきたい事があって。」
「別にいいっすよ。どーぞ。」
俺は部屋に花澤を招き入れた。スレ違う瞬間に花澤の髪からいい匂いがした。以前にも感じた事だが花澤と姉さんは同じ匂いがする。
花澤はダイニングの椅子に座ると辺りを見回し始めた。俺はキッチンで麦茶を用意してから花澤の向かいに座った。
「話したいことって?」
「…あのね、兄ちゃんの部屋に手紙があってな、それはナツキ宛の手紙なんやけど…多分そこには全部が書かれてると思うんや。表にはナツキに渡してくれって書かれとるんやけど…。」
花澤はモジモジと頭を動かしながら下を向いている。
「ごめんね…。ずっとこれはうちが持ってたんや。知っててずっと隠してた。これを見極めるのがうちの役割なんやって思ってて…。今がその時なのかなって思っとる。」
花澤は震える手で手紙を机の上に出した。
きっと花澤も怖かったんだ。これを渡せないままドイツ戦を迎える事が出来なかったんだ。もし俺が死んでしまえば何も知らないまま終わってしまう。それだけは避けたかったのだろう。
俺は黙ってその手紙を受けとる。そこには風間の手書きの文字が綴られていた。
『ナツキへ
この手紙を読んでいるならば俺は死んでいるということになる。まさか自分が死ぬとは思っていなかったがこうなっては仕方ない。ナツキに頼みがあるんだ。
つくしを守ってくれ。あいつは俺の大切な妹なんだ。これを頼めるのはハルカの弟である君しか居ない。大丈夫、ナツキは強いよ。死んだ俺が言うのもおかしな話だが、ナツキは俺の弟子なんだから。
それともう一つ伝えたい事があったんだ。俺が死んだということは“真実”を伝えるのはどうやら俺の役目では無いらしい。あの時教えてあげられなくてすまなかったね。でもナツキと飲んだワインは最高に美味しかったよ。ありがとう。
追伸
つくしは俺の妹であって恋人ではない。それはあいつも同じ筈だ。くれぐれも勘違いしないように!』
読み終わった時には自然と目からは涙が溢れていた。俺は手紙を丁寧に畳む。風間にとって花澤がどれ程大切な存在だったのかがわかる。無念だっただろう。だからこそ俺の気持ちを知っててこの手紙を託したんだ。いや、花澤を俺に託したんだ。
「何が書いてあった?やっぱりハルカちゃんのことやった?」
「…いえ、それについては書いてないっす。」
俺は涙を拭きながら答えた。すると花澤は首をかしげながら右手を出した。
「見せて!」
「ダメっす。」
「なんで!?」
「これは風間隊長が俺に宛てた手紙っす。」
俺は手紙を急いで封筒の中に戻した。
「ずるいやん!」
「風間隊長の事っすから、ちゃんとつくし先輩宛の手紙があった筈です。」
「確かにあったけど…」
「なら終わりです。そんなに大人気ない事言ってると風間隊長に怒られますよ?」
「ぶぅー!!」
花澤は俺にブーイングしてから麦茶を一口飲んだ。二人はふいに我にかえって沈黙する。
「つくし先輩。」
俺がそう呼ぶと、花澤は俺の目を見た。俺はそれを確認してから続けて口を開いた。
「…俺が守るっす。」
俺の言葉を聞いた花澤は少し寂しそうな顔をしてからゆっくりと答える。
「…バカ。」
そう言って俺から目を逸らす花澤の姿に胸のドキドキが止まらなかった。震えていた手はいつの間にか止まっている。俺は花澤をじっと見つめる。
「あの…その、つくし先輩今から寝たら起きれるんすか?」
「…なんでそんなこと聞くん?」
「時間までここで一緒に居れたらなって…思って。いや、そんな横縞な気持ちとかじゃなくて…」
すると花澤は席から立ち上がって俺の元へと歩み寄ってきた。そして俺の顔をギュッと抱き締める。
「ええよ。二人で一緒に居よっか。」
花澤の優しさに包まれた。
不安だった。誰かに側に居て欲しかった。怖かったんだ。孤独で居ることは死んでいる事に似ているから…。
隣に居てくれるのが花澤で良かった。俺は花澤と背中合わせで眠った。




