トクベツサクセン
「菅野さん、このランクSSSのレギナルドって…?」
「…そいつは文字通り世界最強の男、人の枠を超えた存在という意味の“人外”と呼ばれている。そいつにはどんな攻撃も通じない。ドイツが世界最強と呼ばれる元凶なんだ。」
「…月島先輩でも勝てないんすか?」
「それは俺にはわからんよ。でも…」
菅野の表情が少し曇り、言葉が詰まる。俺が問い詰めようとした所で日向に注意を受けてしまった。
「そこ、無駄話は終わってからにしろよ?今はミーティングに集中しろ。」
俺と菅野は縮こまる。周りの視線が痛い…。俺のせいで菅野まで注意を受けてしまった。申し訳ない…。
ミーティングは朝まで続いた。今回はバラバラに配置されるので全員で動きを確認する必要があったのだ。長い時間拘束されたがその途中誰も集中力を切らすことは無かった。それは今回の相手の重大さを物語っているようだった。
「戦略面は以上だ。何か質問は?」
時刻は午前6時を回った所、日向がそう言って皆を見渡したが質問する者は誰も居なかった。
「出発は明日の夕方4時。武器リストはそれまでに各隊長へ提出するように。…鳥海はこの後俺の所へ来い。それじゃ解散。」
日向は最後にパンと手を叩いて解散を宣言した。
…またか。一体何なんだよ…?
菅野に背中を押され、俺は小さく溜め息を吐いてからゆっくりと日向の元へと歩き始めた。
「…なんすか?」
「場所を変えるぞ、付いてこい。」
意外なことに日向は真面目な表情でそう言ってから俺に背中を見せた。一人で行きたくは無いがここで付いていかない訳にもいかない。後ろを振り返ると心配そうに俺を見守る花澤の姿。
仕方ない…よな。
俺は花澤に一礼してから日向の後を追った。
暫く歩いた後に辿り着いたのは資料室だった。人気が全く無い部屋に二人きり、一体何をしようというのだろうか?
バタン
日向はドアを閉めてから電気をつけた。
「そんなに人には聞かれたくない話があるんすか?」
俺は横目に日向を睨みながら口を開いた。
「ドイツ戦の話だ。お前には個別にオーダーがある。これはチームの勝利の鍵となる作戦だ。」
「…え?」
「他言は許さねぇ。まずお前は…」
日向は前置きを伝えてから俺に説明を始めた。断る隙など与えないように淡々と言葉を並べていく。全てを聞き終えた俺はその作戦内容に息をのんだ。
「…わかりました。それがオーダーならやり遂げますよ。」
「よし、頼んだぞ。」
日向は珍しく表情を緩めて俺の肩を叩いた。今までこの人には嫌な印象しか無かっただけにその違和感が気持ち悪かった。俺が頷くと日向はそのまま資料室の出口へ向かって歩き始めた。すると扉に手をかけた日向は急に振り返って再び口を開いた。
「…おい鳥海。…もしもの話だがレギナルドと対峙しても戦うんじゃねーぞ。目の前で何が起こってもお前は全力で逃げろ。これは挑発じゃねー、俺にはお前が必要なんだ。…それじゃあな。」
バタン
日向は資料室から出ていってしまった。
フラグを立てられてもランクSSSなんてこちらからお断りだよ。言われなくても逃げるさ。特に深く考えることはせずに俺は部屋を見渡す。
ここで一人になるのはあの日以来だ。
資料室で一人になった俺はあのロシア戦の資料を取り出した。
死亡 鳥海ハルカ
俺は姉の名前を手でなぞった。
あの日…。俺の知らないこの日に姉は死んだ。姉さんは一体何を考えて死んでいったのだろうか。
「力、貸してくれよ姉ちゃん。今回は強敵なんだ。」
独り呟くが姉の声などしない。何も言ってくれる訳がない。
「最近姉ちゃんがどんな声してたのかすぐに思い出せなくなってきたよ。なぁ…姉ちゃん、喋ってくれよ…顔、見せてくれよ。また二人で一緒に……」
一人で喋っているうちに俺の視界は霞んでいた。
俺は一体ここで何をしているのだろうか。




