スナイパー
朝食はブュッフェ方式だ。こうなると花澤の食欲は収まらないらしく、何度となく席を立ち上がっては戻りを繰り返す。俺は冷茶を飲みながらその光景を眺める。
「これ、美味しいわぁ!なんやろ、これ?なんかツブツブしてるの入ってるわ!わぁ、こっちも美味しい!」
少しは静か食事が出来ないものかと思う。だがこれはこれで微笑ましい。とても先輩には見えないが、そこは気にすることでもなかろう。
「あ!花怜ちゃんや!良かったら一緒に食べへん?」
花澤の視線の先には金髪姿の月島が朝食を持って立っている。
…ん?いつの間に染めたんだ?
まさかこの短期間で?
月島は黙ったまま頷くと花澤の隣に座った。
「ほら、ナツキ!自己紹介せな!」
花澤は何を言っている?
何故改めて自己紹介をしなくてはいけないのだ。だがそう言われてはしない訳にもいかない。俺は渋々再びの自己紹介をする。
「と、鳥海ナツキっす。毎度お世話になってます。」
二回目となると流石に意味がわからない。俺は急に恥ずかしくなってだんだん声が小さくなる。
月島はポケットからペンと紙を出すと、何かを書き始めた。そして数秒後に書き終えたそれを俺に渡した。
『月島花怜です。よろしくね。』
辛うじて解読可能な文字で名前が綴ってある。何故筆談をしなくてはいけないのか、更に謎は深まる。…あれ?月島の下の名前って確か違ったよな…?そう言えばさっき花澤も花怜って呼んでたな…。
俺は混乱して思わず花澤を見た。だが花澤は相も変わらずご飯に夢中で役に立たない。月島はそんな俺の心情を察したらしく、もう一度何かを書きはじめる。
『いつも姉がおせわになってます』
ようやく理解した。この人は月島美咲の妹なのだと。見た目がそっくりでわからなかった。確かに良く良く見れば身長も月島よりも若干小さい気がする。
「すみません。てっきり美咲さんだと勘違いしてました。」
俺が頭を下げると、花怜はあたふたと慌てる素振りを見せる。月島も口数は少ないが、この人はもっと少ないのだろう。
だが、月島よりもリアクションは面白い。まるで月島が慌てているように見えて少し笑ってしまった。
「花怜ちゃんはね、凄腕のスナイパーなんや。元々アメリカ陸軍の特殊部隊に居たらしいわ。確かそやったね?」
花澤は口に食べ物を含んだまま喋る。余程さっきのツブツブが気に入ったらしくさっきからそれしか食べてない。
「えっ?日本人なのに、アメリカ陸軍に居たんですか?」
「ちゃう!花怜ちゃんと美咲ちゃんはハーフや。見てみい?花怜ちゃんの瞳、青いやろ?」
気にしてみると目立つ。確かに花怜の瞳は青かった。
「あの…さっきから気になってたんですが、何で筆談なんですか?」
「花怜ちゃんは喋られへんのや。」
花澤がそう言うと、花怜は首に巻いていたスカーフを取った。そこには痛々しい傷痕が残る。俺はついそれから目を反らしてしまう。
「すみません。気づかなくて…。」
俺が謝ると、花怜は首を横に振った。そして優しく微笑む。
「戦闘中危なくなったら花怜ちゃんが助けてくれるわ。だからとは言わんけど、積極的に攻められるんや。」
「でも…俺たちに与えられるのって、ハンドガンだけですよね?一体どうやって狙撃を…?」
実は戦闘時に俺たちに与えられるのは、たった一発しか弾が入っていない国連指定のハンドガンのみなのだ。しかもそれを改造することは禁止されており、とても狙撃が出来るとは思えない。
「ま、それはいつかわかる時が来るやろ。今は別に知らんでもええわ。」
「ええ!?教えてくださいよー!そこまで言っておいてズルいっすよ!」
俺と花澤の掛け合いが面白かったのか、花怜はニコニコとこちらを見ていた。




