カギ
騒々しい音が鳴り響く。いつも起きる時は携帯のアラームだ。この音は嫌いだ。まだ眠っていたいという欲求を阻害するのだ。俺はいつも通り、目を瞑ったまま携帯を探す。…あった。俺はそのままアラームを止める。そしてまた眠りについた。
5分後、再びのアラーム。スヌーズ機能が働いたらしい。俺はふと思い出す。
「…起きるか。トレーニングだったな。」
昨日はとても長い1日だった。沢山の人と会って、沢山の事を知った。まるで昨日1日が夢だったかのように静まり返った見慣れない部屋。少し懐かしい匂いがする。
時刻は午前5時を回ったところ。俺は抵抗する体を強引に動かしてシャワー室へと向かった。そしてシャワーを浴びながら考える。
トレーニングってどこでやるのだろうかと。
目が覚めるに連れて段々焦り始める。どうすればいい?いや、待て。昨日到着した時に確かトレーニングルームらしき所を通ってきた。そこかもしれない。
俺はスーツケースからスポーツウェアを出し、それに着替えた。携帯を持って、部屋の鍵をポケットに入れる。まだ30分は猶予がある。流石に半刻もあればたどり着けるだろう。
部屋を出て、歩き始める。昨日はああ言ったものの、地図を覚えるのは比較的得意な方だ。多分迷うことはない。昨日歩いた通路を一人で進む。それにしても広い。一体ここには何部屋あるのだろうか?まるでゲームで見た研究施設、いや秘密基地だろうか。とんでもない所に来てしまったと改めて実感する。姉さんは毎日ここで生活していたのだろうか。正直、二日目にして息が詰まりそうだ。
前方から話し声が聞こえる。俺はその声に少し安堵する。足早にその声の方へ向かうと、そこには二人の男が居た。その内一人は昨日竜胆と話していた第一小隊の男だ。
「おう、新人君じゃん!おはよう。どした?何か用か?」
その男は俺に気付く。俺は改めて挨拶をする。
「あの、鳥海ナツキです!これからよろしくお願いします!」
「わざわざそれ言いに来たのか?律儀な奴だな。俺は松本正宗だ。こちらこそよろしくな!んでこっちが…」
「安井景虎という。これからもよろしく頼むよ。」
二人は俺に微笑みながら挨拶をくれた。昨日の印象では第一小隊のメンバーはもっと恐ろしい人たちだと思っていた。だがこの二人は確かに強面ではあるが、言葉に刺は無い。
「それにしても…。ますますわかんねぇ。同じ新人でもこうも違うもんかな?あいつは研修の時からああなのか?」
松本は首を傾げる。あいつの事を俺に聞かれても、俺だってわからない。
「ええ、前からあんな感じですが、俺にも良くわかりません。ところで、トレーニングルームってどこにあるか教えてくれませんか?」
当たり障り無い返答。簡潔に事実だけを伝え、すぐに話を変える。竜胆の話は今はどうでも良い。
「ふーん。同じような境遇でもやっぱり違うんだな。」
松本がそう言うと、隣の安井は目の色を変えて松本を睨んだ。
「バカ!」
安井は小さな声で松本を叱った。松本はハッとし、バツの悪そうな表情を見せる。
「トレーニングルームはこの先を左に曲がってすぐだ。第二小隊はいつもそこでやってるから間違いないと思うぜ?」
安井は咳払いをすると、何も無かったようにトレーニングルームの場所を俺に伝えた。
なんだったんだ?俺は松本が何故安井に怒られたのか良く理由がわからなかった。だがまあいい。場所は聞けたのだから、とりあえずトレーニングルームに向かおう。




