セイシュンノ
「あっ!!ナツキ、待って待って!」
扉に手をかけようとしたその時、花澤が俺を呼び止めた。俺は力の無い目で振り返る。
「えっと…中国戦の前にした約束、覚えとる?」
花澤は少し頬を赤らめながらそう言って俺から目線を外す。
…ん?んんん?約束ってなんだ?
俺はシパシパと瞬きをしながら考える。この花澤の言い方から察するに…
ハッ!思い出した。
「…外出日の話っすか?つくし先輩が外に連れてってくれるってやつ。」
俺は焦りを表に出さないように落ち着いて答える。その間約3秒。少し返事に時間がかかってしまった。
「…今忘れとったやろ?…まぁええわ。あんな、うち明日外出日貰ってん。よかったらナツキ、護衛役で一緒に行かへん?」
核心を突かれて内心かなり焦ったが、この際そんなことはどうでもいい。
誘ってもらえた事がめちゃめちゃ嬉しい。
…だがダメだ、待て待て。焦るな、クールに、落ち着いて。
「…明日は別に何もないですし、いいっすよ。」
これでは逆に素っ気なさ過ぎるか?喋りながら少し不安になる。だが花澤はそんな事お構い無しにニコっと笑った。
「ほんまに?よかった。そしたら明日、10時にゲートに集合ね!うちがエスコートしたるわっ!!」
「ふふっ!まぁ、期待してますよ。それじゃあ先に失礼しますね。」
俺はそう言って部屋を出た。
と同時に満面の笑みで小さくガッツポーズをする。花澤と出掛けられることが本気で嬉しい。まるでジェットコースターのように、先程まで最底辺のテンションだったものが、あっという間に最高潮まで一気に昇り上がった。
俺はふと目線を上げる。
そこにはトレーニングの手を止めて俺をジッと見つめる松本と里穂の姿があった。
二人は俺と目が合うと怪しげにニヤっと笑った。
「…あっ…えっと。今日はいい練習になったなぁ……さて、そろそろあがろうかなっ。」
明らかに何かを感じ取っている二人。俺は背伸びをしながらそう言って誤魔化し始めるが…流石に厳しいか…?
「あらまぁ、里穂さん。あれが青春ってやつっすね。」
松本が目を細めながら里穂にそう言うと、里穂も同じような表情で口を開いた。
「戻りたいわねぇ~、青春時代に。私なんて結婚してもう10年よ?羨ましいわ。」
あまり見られたくない人に見つかってしまった。俺は軽く会釈すると、顔を伏せながらその場を足早に去った。
そして廊下に出てふと思い出す。
「…明日の独房の食事係…どうしよう。」
俺はあまりの嬉しさに自分の仕事を忘れていたのだ。




