戦利品
彼女は、「王女」だった。
彼女は、「姫将軍」だった。
彼女は、「妃」になった。
数年ぶりの再会は、少々荒れていた。
傍から見れば、「お姫様を助けに来た王子様」のはずだった。
なのに彼女は、戦意に瞳を煌めかせ、奪い取った剣を構えた。
閉じ込められた塔の高さと小ささに怒りを覚え、兜も脱がずに踏み込めば、質素な貫頭衣を纏った彼女が兵士から剣を奪い取った。
おかしいだろ、と叫びたかったが、彼女らしいと笑ってしまった。
常々、「妾より弱い男に嫁ぐ気はない」と男どもをなぎ倒していたのだから。
姫巫女を護る姫将軍として国を旅立った彼女は姫巫女の婚姻を見届け、国へと帰った。
帰って、塔へ幽閉された。
国王の第一王女にして継承位第一位の彼女を、成り上がりの現王妃の愛人と引き合わせ、彼女はその愛人を叩きのめしたのだという。
揚句、その行為が反逆罪に当たると幽閉されたという。
女狐に誑かされる愚王など、珍しくもないが、誰も止めなかったのかと呆れた。
もっと呆れたことに、彼女の国の神官や若い官僚、軍人たちが助けを求めに来た。
国よりも、彼女が大事だという。
どれだけ慕われているのかと驚く。
進軍中も、戦闘らしきものも少なく。むしろ歓迎された。
隠し通路を探す貴族や王族を容易く捕らえられた。
王は自刃、王妃と王子はさっくり処刑、体制は若手を中心にそのまま、ととんとん拍子に片付いた。
姫君の処遇以外は。
「暑苦しい」
眉間に皺を作り睨まれる。
腕枕くらい、いいじゃないか、と言っても不機嫌なまま。
夏なら、まだわからないでもないが、冬じゃないか。
爪先など、凍ってるんじゃないかと思うほど冷たいのに。
「どこが苦しい?胸?」
寝衣の襟に手をかける。
「そういう意味じゃないっ」
慌てる声に笑ってしまう。
「私は、貴女に勝ちましたよね?」
この言葉で、彼女はあらがう事をやめる。
「……飽きない?」
「貴女は、面白い」
不貞腐れて頬が膨らんでいる。
「神官たちが、泣いてましたよ。赦されたと」
「赦すも赦さないもない。国を腐らせたのは、妾を含む王族だ。むしろ謝罪すべきは妾だ」
腕の中の彼女は、小さく、細い。
身を削るような鍛錬はやめさせ、肉付きがよくなるような食事をさせていても、まだ細い。
少しずつ、ふっくらしてきてはいるが。
「長年の勤めを終えたばかりの貴女を誰が責める権利があると?」
「貴方も貴方だ。何の得もないではないか」
「貴女を、妻にできました」
「……アホか」
「恋をする男は愚かですよ」
瞠目する彼女の眼が面白い。
そんなに見開いていたら、目が乾燥するのに。
「貴女を甘やかしたいですし、甘やかされたいです」
無言で頭を胸にこすりつける仕草が、可愛らしい。
「貴女にそっくりの姫が欲しいな」
「ロリコンか!」
「昔を思い出すでしょう?」
「それなら、貴方そっくりの男の子御子の方が良い」
「妬いてしまいますよ?」
「理不尽!」
楽しい。
閨がこんなに楽しいとは思わなかった。
未来が楽しみだなんて、思わなかった。
膨らんだ頬を指でつつきながら、弛んだ顔で笑い続ける。
「愛してます」
真っ赤になった小さな耳が可愛くて、食んでしまう。
「ね?」
「なにがー!」
「言ってもいいですか?」
小さな手で、口を塞がれる。
「口先猥褻物!」
失礼な。
ちゃんと実行に移します。
口を塞がれたまま、めっきり柔らかくなった肢体をまさぐる。
「ちょっ、」
可愛い声を、もっと聞きたい。
もっと傍に。誰より近くに。
それは、最早、渇望。
姫巫女に取られた時間よりも。
隣国に奪われた時間よりも。
もっと長く、深く、濃く。
冷たい爪先すら、熱に浮かされるように。
彼女の全てに口付けた――