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スーパーの袋 後編

 人は自分を取り巻くものから様々なことを吸収し、試行錯誤しつつ成長していく。歩く、食べる、しゃべる、聞きとる。何かに取り掛かるにしても、問題を解決していくにしても、今までに蓄えられた経験・学習の堆積物の中からその手段、指針を見出していく。

 いまだ自我の確立していない、判断基準をはっきりと持たない子供にとっての最大の指針は身近にいる大人、大抵の場合は父や母であろう。特に親が家庭においての絶対者であることが明確であった場合、それに異論を唱えること、思いつくことすらなかなかできないのではなかろうか。

 だが半ば刷り込みのようなそれであったとしても、ある程度大きくなり経験を積み、客観的に物事を判断できさえすれば。違う立ち位置からの見方が少しでも出来たはずである。 


 私が大きくなるにつれ祖母が少しずつ少しずつ老いていく。

 若い体で感じること、老いた体で感じることは何もかもが違う、そのことに当時気付くことが出来なかった私は、自分が早く動けないからか気が急いて、早めに何もかもを準備するように言う祖母を、次々にやるべきことをいう祖母を、そして何度も同じことをいう祖母を段々とうるさく思うようになっていき。

 そうして祖母が老いるにつれそれまで耳にしなかった母の祖母に対する批判的な言葉を聞くようになり、それに疑問を感じることはあれど、その疑問から

 「母が言ってるから。」

 などという主体性のなさと、付け加えて言うなら母に反論することへの抵抗感により目を逸らしたのだ。


 家庭用可燃物ゴミの収集日。

 祖母が、母が収集場所に出したゴミの袋の口を開けて中からゴミの入ったスーパーの袋を取り出し、 そこに入ってあるゴミを元のゴミ袋に入れなおしていた。

 そうして空いたスーパーの袋を家に持ち帰ったのだが、これは何もその時一度だけのことではなかく、度々行われていたことであった。


 母は、

 「あんなことして格好悪い。ゴミが入ってた袋なんて汚いのに。」

と、何度か私たちの前で言っていた。私もまた、それに同意してしまっていた。

 確かに祖母はゴミを漁っているように見え。

 そして私は祖母に、格好悪いからやめてと、時々口に出して注文するようになった。


 今になって思えば、祖母がゴミをスーパーの袋に入れ、それをまた大きなゴミ袋にいれる、つまりは袋の二枚重ねを無駄なこと、勿体無いことと考えたのも当たり前だと思える。

 あれだけ物を大切にしてきた祖母なのだから、たかがスーパーの袋であろうと捨てずにすむものを無駄に捨てることなど出来ようはずがなく、汚れていないように見える袋を取り出して持ち帰っていたのだ。


 また付け加えて言うなら当時から母のゴミ出しは、ゴミ袋を節約しよう、ゴミの嵩をちょっとでも減らそうなどという気などさらさらないもので、祖母からすれば袋が尚更勿体無く感じたのであろう。


 母が祖母に対する愚痴をこぼすことはあれど、祖母は認知症による被害妄想が表れるまでは、私に向かって母のことを滅多とこぼしたことがなかった。

 自分の中に母からの視点が蓄積されつつあることに気付くことも遅く、その立場のみから一方的に祖母を見るようになっている自分にも気付かず、さらには親に意見するということが頭になかった当時の私は。


 確かにその時、スーパーの袋、無駄になってるではないかと思ったにもかかわらず。


 たとえ母に直接言えないにせよ、自分がゴミ出しの工夫をするなどの解決策を講じることも無く、ただ単に母の意見に賛同し。


 そうしてまた、祖母を見る目を変えていったのである。

 


 


 

 

 


  

文章訂正致しました。

(訂正前)母は祖母に対する愚痴をこぼすことはあれど

(訂正後)母が祖母に対する愚痴をこぼすことはあれど

 

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