ほうれんそうの白和え
初めて投稿します。見苦しい点も多々あるかと存じますが、どうぞよろしくお願いします。
私の祖母は明治生まれである。こう記すと、私自身の年齢もある程度お察しいただけるかと思う。
両親が共に働き家を留守にすることが多い中、その留守宅と孫3人の面倒を見てくれていたものだ。
- いや、確かにそうなのだが、自分が子供の親になってから思い起こせば、一般的に思い浮かぶ祖母と孫の関係とはすこぅしばかり違っていたように思う。
私と姉とは年子であるのだが、小学校3、4年生にして家事手伝いをしていた。ゆえに包丁を持つのも早かった。中でも よく思い起こされるのは、白和え作りである。
祖母はほうれん草の白和えが大好物であった。大きなすり鉢とすりこ木を出してくれば白和えである。
まずはごまを炒る。炒りごまを買ってあったのか生のごまであったのかは記憶にない。炒ったのだから生だったのだとは思うが、古くなって香りが飛んでいたから、もしくは虫がついてつわっていた ~ 虫の出した糸で絡まった団子が出来た状態になっていた ~ のかもしれない。
(なお、処分するなんで考えられない。穀物を食べる虫が入っただけなので、綺麗にしていただくのだ。
お米も一年分収穫してあるのだが、冷蔵庫に保管するでなし、ちょくちょく虫が湧いていた。)
ごま炒りに入れて、ゆっくりと弱火にかける。
絶えず揺り動かし続け、ぱちぱちといいだすのを待つのだ。よい香りがしてきて、全体が淡く色付いたなら出来上がり、すり鉢の中にざっと入れる。
さて、お次はすりこ木の出番。
なんせ小学生である。しかも趣味がアウトドアでは決してなかった私たち姉妹が、ごりごりすりすり擦ってもなかなかである。
しかも、しかも、まだこのあと、お味噌にお砂糖、そしてほうれん草にお豆腐が待っているのだ。
祖母と三人といっても重労働。しかも他の用事もある。
白和え作りとは腕に溜まる乳酸との戦いであるといっても過言ではないであろう。
晩御飯に白和えをいただく。決して贅沢ではない食卓の中で、甘いお味噌とごまの風味の白和えを暖かな白ご飯とともに口にいれると、腕のだるさも飛んでいった。
後に百貨店の惣菜売り場で見た白和えに衝撃を受ける。うちの白和えはお豆腐も茹でたほうれん草もすべてペースト状になるまで擦っていたのだが、「お豆腐がお豆腐のダマダマで混じって」いるのだ。
あれは歯の悪い祖母の好みだったんだなとそのとき思ったものだ。