三つ巴
俺の実家は、名家中の名家と呼ばれる家柄だ。
現在の皇帝とは、明確に家系が途中で交わることが分かっている。
そんな俺の実家で、問題が起こっている。
問題は、当主の世襲だ。
この国の法律では、当主は1人しかなれず、同一親等の者は、同時に当主になることはできないとなっている。
そりゃ、いくらでも当主だと言ってしまったのなら、家制度は崩壊するだろう。
それを防ぐためらしいのだが、問題は、当主を世襲する資格がある者が3人いると言うことである。
ようは、三つ子だ。
俺は長兄の子供だが、それぞれの子供たちと仲がとてもいい。
誰が当主になってもいいじゃないかと思っているのだが、どうやらそれじゃだめな理由があるらしい。
なんでも相続分がよくとれるという話なのだが、なんだかよく分からない話だ。
「…それで、うちらはどぉするん?」
別室に閉じ込められるような形になっている死んだ当主の孫たちは、総勢5人。
長兄の子供が2人、次兄の子供が1人、末子の妹の子供が2人だ。
「どうするもこうするも、親が話しあってるところに乱入したら、それこそお仕置きだろ」
「そうだよなぁ…」
とはいっても、俺たちにどうにかするという力はない。
はずだった。
「なあ、知り合いに、すごい人がいるんだが、その人に仲裁頼むってのはどうだろ」
「誰?」
「ラグーキン・ゲルナック」
その名前は、聞かぬ者はいないほど有名な人物の名前だった。
次兄の子であるラスクがその名を言った瞬間、誰かが息をのんだ。
「なんで知ってるんだ、閣下を」
「知人を経由してね。実は、ちょうど電話番号も知っているんだよな」
「でも、親の認可が無いとダメだろ」
その時、部屋のドアが開いた。
「来い。帰るぞ」
ラスクの親がそこに立っていた。
「決裂したんだね」
「そうだ。帰るぞ」
「じゃあさ、仲裁を求めるのはどうだろ」
ラスクが提案する。
「仲裁だと…」
考えれば、当主をめぐっての争いは、裁判や和解で決着を付けることとされている。
だが、総資産が5兆円、ざっと10000坪の大邸宅を無条件で受け継ぐことができると言う当主の座を巡って、和解は確実に不可能だし、裁判になっても、醜聞をさらすだけだろう。
それを避けるためには、誰かに間に立ってもらうしかない。
「…誰か案はあるのだろうな」
「もちろん」
ラスクは笑っていた。
閣下が家を訪れたのは、ラスクが連絡をしてから3日後のこと。
一族総出で出迎える。
今回は公式訪問と言うことなので、通常礼服で、閣下も来られていた。
「ラグーキン・ゲルナック海軍元帥閣下、本日は仲裁を行っていただけるとのことで、万感の思いでございます」
長兄が代表してあいさつをする。
「仲裁内容は、当主の決定であったな」
「さようでございます」
「仲裁部屋は」
「こちらでございます」
案内をする長兄を除いて、俺たちはこれで一旦暇になる。
あとは、仲裁内容をみんなに知らせる時までは、何もすることが無い。
前と同じ部屋に閉じ込められる形で、俺たちはまたいた。
「しかし、なんで閣下と知り合いだったんだ」
ラスクに聞いてみる。
「なに、簡単さ。大学の友人が閣下の息子だったのさ。すごいだろ」
ドヤ顔とはこのことをいうのだろう。
だが、閣下を直接見れただけでもラッキーだろう。
先の国家戦争において、皇帝陛下から直々に海軍所轄全艦指揮権を授けられ、3度の艦隊砲戦を全て旗艦において指揮を行い、全て完勝したという方である。
また、艦砲射撃によって陸軍を援護し、戦艦の長距離砲を生かして一定の距離までの敵基地を全て均してしまうという作戦を立て、全てを成功しているという輝かしい功績を持っている。
いまでは、皇帝付き最高海軍顧問の称号があり海軍大臣に戦時中のみ指揮を執ることが許されている唯一の人物でもある。
それからしばらく俺たちは放置されていたが、数時間後に結論が出たらしく、閣下本人が出迎えてくれた。
「では、報告をしよう」
コホンと咳払いをして、発表を始めた。
「皇帝陛下より与えられた権限と、一致した意見として全権を仲裁員として私に与えられた権限によって、今回の仲裁会議の結果としての当主の結論を述べる」
一瞬、誰もが止まった。
「……私が出した結論は、3名全員不適格である。よって、私はラスクに当主を任命する。なお、私は後見人とし、5年間様子を見る。5年後、再び仲裁を行い、その際に適格を確認する」
「そんな!」
叫んだのは長兄だ。
「今回は、全員が不適格である。家族の争いは仕方ないとしても、ここまでこじれにこじれてしまえば、一旦誰かに預けるのがよろしかろう。また、5年と期限を区切ったのは、頭を冷やす必要があると考えたからである。同様に、家族のなかで、もっとも私が信頼できる人物に、当主職を任せる。以上だ」
文句を言いそうになっている親と弟妹を睨みつけ、さらに言葉を続ける。
「仲裁者は全権を委任され、また皇帝陛下の代理人として事に当たっている。私に対して文句を言うことは、皇帝陛下に文句を言うこと。それは決してしてはいけないこと」
それだけで、あとはいらなかった。