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猩々の兎  作者: 蓮見 退
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【プロローグ】


 つい先ほどまで薄暗かった森の中に、朝日が射し込み始めた。

もう、朝だ。


走り続けてどれくらいになるだろう。昨日(さくじつ)の日がまだ低い(ごろ)には家を出ていたのだから、既に十時間は走り続けていることになる。

 それでも私は、休むことなく走り続ける。走り続けなければならない。

 結った髪は崩れ、赤いワンピースは木々に切られてぼろ雑巾のようになってしまった。千切れた赤い布地が、腕の擦り傷から飛び散る血と共に腐葉土の元と舞い落ちていくのを、もう何度も目にしている。

整備された道など無い森の中は、音で溢れかえっていた。まだ早朝であるというのに……。これも呪いのせいなのだろうか。

鳥の鳴く声、枯葉が鳴る音、獣の息遣い、土を踏みしめる私の足音。

後ろから追ってきているであろう彼の足音だけが、私の耳に全く届かない。

 ――ラルフ兄さん。

 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

と、そんなことは考えるまでもない。

 ――あの赤い目をした忌々しい兎。いいや、忌々しくなることを余儀なくされた兎と言ったほうが正しいか。

全てはあの、猩々が如く赤い目をしたあの兎から始まってしまった。過去を遡る(すべ)を知らない私は、もうあの兎をどうすることもできない。

ほんのひと時、私たちの子供であった猩々の兎を。

 兄さんは呪者(じゅしゃ)()ったのだ――



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