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晴れのち僕と彼女

晴れのち僕と彼女⑥

作者:

『晴れのち降水確率60%と僕』


 自分が無力だと感じたのは二回目だった。

 一回目は母さんが死んだとき。

 二回目は今。

 それから僕はこんな思いをするのが嫌で必死に勉強したのに・・・まったく役に立たない。あんなに頑張って今の高校に入ったのに・・・数学の公式も、英語の単語も。

 なんの役にも立たない。


水曜日、僕はいつもの川原を歩いていた。普通なら学校で勉強しているはずの時間に。

つまりサボっていた。

僕は見かけからして勉強以外なにもできないやつで、サボるのも二回目で、自分の無力さを感じるのも二回目だけど、結局なにもすることなんて出来なかった。それで僕は通学途中にある川原で時間を潰していた。


サボったはいいものの、僕はなにもすることが無く川に向かって石を投げたり、歩いたり、疲れたらしゃがんでみたりしていた。そんなことを何回か繰りかえし、また歩き出した。

今と同じようにしていた5月に僕は彼女に会った。

彼女は僕と反対側から歩いてきた。ゆっくりゆっくり、けど確かに。

 

 そんなことを僕は歩きながら思い出していた。


 今日の天気は今のところ曇り。

 天気予報のお姉さん曰く、午後からの降水確率は60%。

「なんで手術の失敗率と同じなんだよ・・・」

 僕は曇った空を見上げながらつぶやいた。

 しばらく空を見上げた後、僕は何時ものようにコンクリートの上に座った。

 暗い、何もかもが。

「大丈夫・・・あのお天気お姉さんの天気予報は外れるから」

 そんなことを一人で何度もつぶやいていた。ただ自分を安心させるために。

 僕はコンクリートの上に寝転がり今にも降りそうな空を見た。

 僕は空をずっと見ていないと心配で仕方が無かった。見張ってないと、前みたいに目をつぶったりしたら、雨が降ってきそうで・・・。僕は空から目を離せなかった。


 空をずっと見ていたら、何かが目に入った。僕は驚いて目を閉じ飛び起きた。

 僕の目に入ってきたものがどんどん僕の頭や体に当る。

「あ・・・雨?」

 それが雨だと気づいたときにはすでに雨は本降りになんていた。

「なんで・・・なんで降って来るんだよ!!!!!」

 僕は空に向かって叫んだ。

「止めよ!!!」

 僕は何度も叫んで、喚いた。

「止んで・・・止んでくれよぉ・・・・」

 僕がいくら叫んでもいくら喚いても、雨は止まなかった。

 僕は地面のコンクリートに爪を立てて、自分の手を思いっきり握った。手の平から血が出ても僕は気づかずに握り続けた。

「なんで・・・なんで・・・・・」

 僕の顔は雨でびしょびしょになった。


『行こう』

 僕はそう思った。

 彼女の所に行こう。彼女の近くに行こう・・・。

 これ以上後悔するくらいなら。

僕は走った。手の平は血で真っ赤で、頭も体もずぶ濡れで重いけど、僕は必死に走った。

僕の大嫌いな病院へ。




僕は病院へ付くとすぐに手術室のあるほうへ向かった。

「手術室はどこですか!?」

 僕は前を歩いていた看護婦さんに聞いた。看護婦さんはビックリしていたけど、これから手術をする患者さんの知り合いだと言うとすぐにその手術室の前まで案内してくれた。

 僕が手術室の前に着いたとき、すでに手術中という赤いランプが付いていた。

 僕は時計を見る。1時3分、もう手術は始まっている。

「はぁ・・・はぁ・・・」

 今までに無いくらい全力疾走した僕はその場に座り込んだ。

「もう・・・始まってる・・・」

 僕は座り込んだままずっと床を睨んでいた。顔を上げたら、またあの赤いランプが目に入る。白い壁が、天井が、開かないドアが、僕にあの時のことを思い出させる。

「母さん・・・」

 大丈夫、大丈夫・・・僕は自分に言い聞かせる。

 彼女は戻ってくる。また晴れた川原で彼女に会うんだ・・・・。



 どれぐらいの時間がたっただろうか。

 静かにドア開いた。医者がマスクを外しながらこっちに近づいてくる。

「全力をつくしましたが・・・残念です」

 医者は静かにはっきりと言った。

 僕は黙って医者を見つめた。何がかんだか分からない。

 医者の言った言葉が頭の中で何度も何度も回る。

 

『・・・ザンネンデス』


僕はその場を走って逃げ出した。

 後ろで医者が何か言っているがそんなことを聞く余裕なんてまったくない。

「ウソだ・・・ウソだ!!!」

 僕はずっと繰り返しながら走り続けた。


 しばらく走り続けてもう一歩も動けなくなった頃、僕はやっと体に冷たい雨が当っていることに気が付いた。病院の外に出たんだ。

 目からは雨とは違い温かいものが溢れてくる。

「くっ・・・ひっく・・・」

 嗚咽が止まらない。

 目の前がゆがんでいる。目をこすってもこすっても涙が止まらない。止められない。


『彼女が死んだ』

 僕は信じたくなかった。

 だから病院から逃げ出した。もう笑うことのない彼女を見ることが出来なくて。

また結局僕はあの時と同じなんだ・・・何も変わってないんだ。


僕に出来ることなんて、何も無かったんだ。


僕は歩き出した。彼女と会った川原に向かって。

それ以外今僕は何をしていいのか分からなかった。


僕が川原に着いたとき、雨は小雨になっていた。

僕は何時ものようにコンクリートに寝転んだ。雨が僕の顔や手や脚に遠慮なく降ってくる。相変わらず僕の目の前はぼやけていた。

このままここに居たら、また彼女に会えるかもな・・・・。


僕はゆっくり目を閉じた。

 


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