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死んでもいいからキスがしたい  作者: Anzsake
エリンジウム
6/50

1.5

「…スマホゲーム、ですか?」

愛里ちゃんと更に仲良くなる作戦のひとつ。これならば接触の必要も無いし、空き教室以外でも楽しめる。早速いくつか候補を出してみるが、冷静に考えて彼女と楽しく遊ぶならどれがいいだろうか。銃を撃ち合うゲームは勿論論外だし、類似した対戦ゲームも好ましくない。僕が熱中して口が悪くなるのが怖いからだ。

「例えばこれ」

はじめの候補はゆるい絵柄のmmoを提案してみる。僕も経験はないが二人足並みそろえて始めるのはありなのではないだろうか?愛里ちゃんはゲームそのものの経験がないらしく、少しインストールに手間取ったが、何とか起動することが出来た。

画面に二人のキャラクターが表示される。

「…可愛い」

彼女のキャラクターが小さく動く。それに合わせて僕も動かす。クルクルさせたりジャンプしてみたり、動きだけでのコミュニケーションを楽しんだ。

お互いのキャラクターが重なる。あ、と思い顔を見上げるとそれで理解した彼女の表情が少し曇った。

今のは僕のミスだ。僕がいちいち彼女の傷に触れてどうするんだ。画面に集中して現れる可愛い敵を倒す。ふと彼女を見る。熱心にスマホを触っている。

…集中できない。目の前の彼女のことも勿論、ほかのいろんなアクションゲームをやってきた僕にこのゲームはぬるま湯過ぎる。でも今楽しんでる彼女にそんなことを言うのは酷ではないか。こういう時どうすればいいのか今でも分からない。


家に帰ってもう一度スマホゲームを開く、タップするだけの簡単なゲームを少し触って再び閉じて、テレビに繋いである据え置きゲームを起動する。

めちゃくちゃにゲーマーという訳ではないが、それなりの経験がある以上物足りなさは仕方ない。そんないつものゲームも、彼女の事を思うと、その後ろめたさを思うとあまり熱中出来なかった。


翌日の休み時間、空き教室に行くと彼女はスマホを触ってなかった。いつも読んでる小説を読んでる。それとなく聞いてみると

「えっと…目が疲れちゃって…」

とぎこちなく笑うのである。

「いや、気にしないで!君がやりたい事の方が大事だから」

「その…代わりと言うのはあれなんですが…」

そう言って彼女は鞄から小さな箱を取り出す。

「へぇ…花札じゃん。やった事ないけど、できるかな?教えてくれない?」

「…はいっ、勿論です」

彼女の方からのお誘いが嬉しかった。机をふたつ並べてルールブックを借りる。

花札は1月から12月までの札4枚ずつ、計48枚で遊ぶゲーム。早く役を揃えたほうの勝ち。

予め親と子を決めて札を配る。初めはそれぞれ手札8枚、場には表の札が8枚出る。親から交互に場に札を出して、同じ月の札が場にあれば自身の出した札と、その同じ月の札を持ち札に置ける。そうして山札から1枚表にして場に出す。この山札から出した札も、場に揃う札があれば持ち札にする。

これを手札が無くなるまで繰り返し、先に持ち札で役を揃えた方の勝ち。これが花札の「こいこい」の基本ルールだ。

役にはそれぞれ点数があるが、僕が初心者なのであまり気にせず遊ぶことにする。

流れとカードを理解すれば、花札は一応遊べる。だが花札で意識するのは「持ち札に何があるか」だろう。ただ闇雲に持ち札を増やすだけでは勝てない。同じ月の札にも「光」「種」「短冊」「かす」の4種が存在し、それらを集めて役を作る。自分の持ち札も勿論。相手が何を持ってて、どんな役を作りだかっているのかを考える必要もある。やっていくとシンプルだが、この駆け引きはなるほど癖になる面白さがある。何より札がかっこいい。

初めは勝てないがやっていけば…やっぱり勝てない。赤タン、タネ、猪鹿蝶…彼女の役の組み立てが経験者としての洗練さを感じさせる。

「悔しい…よくやってるの?」

「はい…お母さんが強いので」

「むむ…」

そうして愛里ちゃんが桜に幕を持ち札に加えて、三光で僕の負け。

「あ、あの…楽しい、ですか?」

余りにも僕が負けっぱなしなので心配をしているのだろう。さすがに昔のように場をぐちゃぐちゃにするようなガキでも無いし、相手は親しい姉でもない。

「次の勝負、僕が勝ったらひとつお願いを聞いてくれない?」

「え?…い、いいですよ」

やはり勝負事はこうでないと。なによりこれを使って愛里ちゃんと次のデートの約束を立てれる事を目論んでいる。関係なくデートに誘えるほど、この時の僕は大人じゃない。

親は僕、札を配り終えてゲームが始まる。場に出ている菊に盃の札、こいつは僕の手札の芒に月と一緒に役になる。チャンスだ。先ずは手札の芒に月を出して持ち札に加える。今になって悪手だと気付いた時には愛里ちゃんは颯爽と菊に盃を持ち札に加えた。相手に今欲しい札を公開してしまったのだ。

「…イヒヒ」

愛里ちゃんが目線を上げてマスク越しに笑う。ムッとなった僕の顔がすぐに解ける。というか笑い方可愛いな。

気を取り直してゲームを続ける。次に狙うは三光。

場に出ている桐に鳳凰を持ち札に加えて、後の光は1枚。場にはもう光は無いのであとは流れが来るまで待つ。続いて愛里ちゃんが種を2枚持ち札に加える。種があと2枚だ。そしてここに来て、場の種が4枚もあることに気づく。…視野が足りなかった。自分の手札にばかり気を取られていたとようやく気づく。僕が場の種を何とか1枚取ったあと、愛里ちゃんが種をもう1枚取り山札に手を置く、一瞬こちらを見やりゆっくりと引く。タネで愛里ちゃんの勝ちだ。

負けたことは勿論悔しいが、愛里ちゃんの好きなことを知れたことが素直に嬉しかった。休み時間のチャイムが聞こえる中、愛里ちゃんが言う。

「えっと…じゃあ、私のお願い、聞いてくれませんか?」

「…も、勿論」

失念していたがそれはそうだ。僕が勝ったらお願いを聞いてもらうなら、彼女も勝ったらお願いを聞くのが筋だろう。姿勢を正してお願いを待つ。

「あの…また、デートしません?」

「僕も、そう言おうと思ってた。」

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