4.2
山の中だからか、星がとてもよく見える。学校でみた時とは大違いだ。これだけたくさん星が見えていたら、星座を探すのは困難だろう。上を見上げるのは僕だけで、他はみんな周りをキョロキョロしている。
参加したのは紀章先輩、3年の先輩、1年の同級生、僕の4人。
「なんで女の子が居ないんだ」と3年の先輩が愚痴る。ただでさえ女子の少ないうちの陸上部は、合宿が強制参加では無いので、今女子は一人もいない。
「いいじゃないか、男で馬鹿騒ぎ出来るんだし」
「えー、でも俺は2年の高野ちゃんと肝試ししたかった」
紀章先輩の励ましをスルーして3年の先輩が言う。横で歩いている1年の同級生は既に怯えている。連れてこられたのだろうか。
「颯稀、怖くないの?」
「別に」
今の僕は、幽霊という物に懐疑的だ。石の件もそうだし、あれだけ噂された空き教室の幽霊は、1度も見た事が無い。最近は廊下に花を置いたので、また変な噂が立っている。
「…幽霊になれば、触れ合うことが出来るだろうか」
以前愛理ちゃんが言っていた事を思い出す。口に出てたみたいで3人がこちらを向く。
「…何と?」
真っ当な質問だ。
「触れられない人と」
よく分からないみたいな顔をされる。当たり前だ。余計な釈明をすると更に混乱させそうなのでこれ以上何も言わない。どう思われたのか少し気になる。
「一年の時に3年の先輩に聞いた話だけどさ。この山で空に浮かぶ人影を見たんだと。その人影はこちらを見ることなく山に消えていった…」
そう3年の先輩が話す。紀章先輩が冗談を言う。
「宙に浮いてたら、早く走れるかな」
「それ、走るって言えますかね」
その話を聞いて僕は、その人影は空を飛べる代わりに何を失ったのだろう。そんなことを考える。
「続きがある。その後人影を探す為に山に入ったそうだ。しばらく山の中を進むと、そこには神棚が地面に落ちていた。その扉には[さなえ]と名前が書いた札が貼られていた…」
そう言って3年の先輩が立ち止まる。山の方を指さす。
「この先らしい。花が目印だと聞いている」
そのまま3年の先輩、紀章先輩が山の中に足を入れる。怯えた1年の同級生も後に続いた。確かに足元にはピンクの可愛らしい花が咲いている。なんと言う名前なのだろう。僕も後に続いた。
「で、その神棚を開けてやろうってことか」
紀章先輩の問いに3年の先輩が笑顔で頷く。
「もちろん。なぁ、中身はなにか予想しようぜ。俺はやっぱり人骨とかじゃないかなって思うんだが」
「人骨なら警察沙汰だろ…そうだな、位牌とかかな?」
「それなら俺は泣く」
そう言って先輩たちがこちらを見る。
「えっと、人形とかですかね?考えると余計に怖くなって来ました…」
1年の同級生が怯える。そうして3人がこちらを見る。何故僕がトリなんだ。
「石、ですかね」
「はぁ?なんで」
「…訳わかんない物の方がなんか怖いかなって」
適当に嘘をつく。3年の先輩はあまり納得してない感じだ。紀章先輩が言う。
「だが石は霊が宿るとも言うな」
はじめて石を見た時のことを思い出す。作業車が止まってしまうというのは、その石には何か防衛的な力が働くのだろうか。それは果たして霊なのか。
あの石の事が分かれば愛理ちゃんのことをも分かるのではないかと思っている。
「あ…」
そう声がして前を見る。懐中電灯に照らされた先に小さな木の人工物が見えた。全員の足が止まる。
「…まじであるんだ」
「無かったらどこまで歩いたつもりだよ」
初めに動いたのは紀章先輩だ。つられて全員付いて行く。
その神棚は下の方は苔むしていて、年月を感じさせる。確かに扉には札が貼られているが、文字はかすれて読めない。野ざらしなので当然だろう。
「…開けろよ」
「え?あぁ…うん」
3年の先輩はなかなか動かない。小さな枝の音、風の音、遠くに聞こえる鳥の音、きっと普段ならなんて事ない音が、この世界に恐怖の色を加える。
意をけして3年の先輩が扉に手を伸ばす。1年の同級生が止める。
「やっぱり辞めましょう!何が入っててもいい事無いですって」
そのやり取りを見て見かねた紀章先輩が扉を開けた。御札は片方に引っ付いたまま片側の扉が開く。1年の同級生が目をそらす。
…何も見えない。そこまで大きいものは入ってないのかもしれない。もう片方の扉も開かれる。
中身は何も入っていなかった。全員がゆっくりと息を吐く。
「…はは。なんだ、つまんねぇな」
強がる3年の先輩。紀章先輩も既に触れる気がないようだ。なので代わりに僕が手を伸ばす。神棚の中の上の方に触れる。紙が貼ってあるのが分かる。全員の視線の中、ゆっくりとそれを剥がす。
その紙には「さなえ」と書かれていた。
1年の同級生と3年の先輩が叫んで走り出してしまった。暗闇の中、僕と紀章先輩が残される。僕には何故か確信があった。二人が叫んだ時にコトッと音がしたのでスマホのライトを付ける。神棚には赤黒い変な形の石があった。それを拾い上げて空を飛ぶように念じてみる。残念ながら空を飛ぶ石では無いようだ。
「お前、何か知っているのか?」
紀章先輩が僕に問う。あははと誤魔化そうとしたが、その真剣な顔を見て神棚に石を戻す。扉を閉めて紀章先輩を見る。
「あの、誰も言わないって約束してくれません?」
紀章先輩がゆっくりと頷く。




