Episode 54
日が空いてしまってすみません!
久々の投稿です!
「では、いってきます。」
いい思い出は少ないけれど、それでも、私が成長するのに不可欠だったトスカーナ侯爵邸。不格好に家具だけおいてあり、殺風景な部屋を見て、お礼を言う。普段と大して変わらないけれど、気持ち一つでこんなに見方が変わるのね。
空は晴天。少し肌寒い風はマリがいつも手入れをしてくれているサラサラな髪を揺らす。トスカーナ侯爵邸の門の前にはさも当然かのように義母とトロイア、アルパスは現れなかった。
(まぁ、来ていても、あることないことを叫ばれたり、傷つくだけだっただろうから、いっか。)
それでも、手の空いているだろうメイドや執事は見送りに来てくれた。てっきり誰も見送りに来てくれないと思っていたから、人がいるだけで心が温かになる。たとえ、彼らが本心で来ていなかったとしても。そして...
「体に気をつけなさい。帝国では気候が違ったりするそうだから、特にな。」
トスカーナ侯爵の当主である忙しいであろうお父さまも来てくれた。顔から心から私を案じてくれていることがわかる。分かり合えたのはついこの間だったから、ここでお別れしてしまうのは本当に寂しい。
「それから___今まで、すまなかった。これだけで許されるとは思っていない。たが、邸内も変え、私自身も変える。___ラファが帰ってきたときに過ごしやすいように。」
そう言いながら、お父さまは頭を下げた。どれだけ、どのくらいこの言葉をかけられることを待っただろうか。この人にはわからないだろう。そう思ったからか、少しだけ意地の悪いことを言ってしまった。
「私が一生帰ってこないと言ったら?」
頭を下げているお父さまを見下ろしていた。自分でもお父さまを冷ややかな目で見ていることはわかっている。たとえ、わだかまりがが解けたからといって、すぐに気持ちが整理できるわけでもないのだから、これぐらいは許してほしいけど。
「嫌だったら、帰ってこなくてもいい。そもそも、これだけで許されると思っていない。それだけのことを我々は...いや、私がしたのだ。それもそれで仕方ないのだ。ただ、帝国が嫌になったら帰ってきなさい。いつでも待っているから。」
そう言って、顔を上げたお父さまは愛らしい娘を見るような瞳で私を見た。それを見て、私は自分がひどいことを言ったことを自覚する。帰ってこないわけないじゃない。
「___近いうちに帰ってきますから。そのときはお願いしますね。」
鼻をすすりながら、そういう。こぼれてきた涙を指で掬う。これまでにないほど、穏やかな気持ちだった。お父さまの視界にやっと入れたことが嬉しかった。お父さまから「帰っておいで」という言葉が私を包みこんでくれたようで安心した。
気づけば、馬車から見る侯爵邸は小さくなっていた。
「ありがとう。」
向かいに座っているルークを見てお礼を言う。お父さまがあんなことを言ってくれたきっかけを創ってくれたのは間違いなくルークだ。ルークの口添えがなかったら、きっと話すこともなかったし、侯爵邸に帰ろうとも思わなかったはずだ。だけど、ルークは私と反対方向の窓を見て、
「なんのこと?」
と嬉しそうに白を切った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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