Episode 48
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再び、お父様の執務室には沈黙が訪れる。私がお父様に言いたいこと...いつもだったら、すぐに思い浮かぶのに、実際にお父様を目の前にすると何が言いたかったのか、頭が真っ白になる。そうやって考えていると、お父様は
「すまなかった...。」
といつもだとお父様が謝ったり、頭を下げていることは考えられない。なのに、今は平身低頭だ。拳を強く握りしめているのが遠目でもわかる。その現実が受け入れがたくて、目を背けたかった。だけど、ルークの「素直に行ったほうがいい。」という言葉を思い出す。
そう、よね。いつまでも問題から逃げてばかりじゃダメだ。ちゃんと向き合わないと。意を決してお父様に問い返す。
「お父様は何に謝っておられるのですか?」
「全てだ。エラとトロイアのこと。婚約のこと。私の...俺の態度のこと。全て。」
「...。」
目の前にいるのに、お父様の表情を見ることができない。だけど、お父様の声は弱々しく、悲しそうだった。私も釣られて涙が出そうだったけど、喉に力を入れてなんとかこらえて、お父様の言葉を待つ。
「知っているとは思うが、俺はラファエラの...ラファの母親、レイラを愛していた。だが、ラファが生まれてすぐにラファの母親、レイラが死んだだろう。」
そう、それをいつもトロイアやお義母様に引き合いに出されて、何度惨めな思いをしたことか。
「その後、当然ながら俺のところには再婚の縁談が山ほど来ていたんだ。俺は再婚するつもりなんてサラサラなかった。レイラの忘れ形見であるラファと慎ましく暮らせたら良かったんだ。だが、一族の親戚はそれを許さなかった。それでやや強制的にエラと結婚させられたんだ。」
(どういうこと?私と”慎ましく暮らせたら”?お父様は私のことを嫌っているのではないの?)
お父様の告白に混乱する。だけど、お父様は言葉を紡ぎ続ける。
「レイラが死んでまもなくエラと結婚したから、ラファも覚えてないだろうけど、エラは一度ラファを殺しかけている。」
「えっ___」
待って、待って。どういうこと。お義母様が私を殺そうとしていた?それって罪に問われてもおかしくないはず。なんで。
「確かラファが1歳ぐらいの頃、エラが妊娠していることがわかって、そのすぐぐらいだった。エラがラファの首を絞めていたんだ。幸いにも乳母がすぐに見つけたから大事には至らなかった。俺もさすがに警備隊に報告したんだが、エラがそいつらに大量の賄賂を渡したらしく、罪がもみ消されたんだ。ラファが幼かった上、殺してはいないからと言って。当時、ラファをかわいがって、エラを視界にすら入れていなかった。それが気に食わなかったらしい。あの時、本当にラファが死んでしまったら、と考えたら恐ろしくて、なるべくラファと一緒にいないようにしてたんだ。俺はわかっているとは思うが、言葉足らずでラファに何の説明もせずに遠ざけてしまっていた。本当にすまない。」
まだ。まだ、私の疑問は解消されずに、喉に小骨がつっかえている。ルークの言葉を信じて、思い切ってお父様に
「なぜ、なぜ私がトロイアとお義母様にいじめられていても、助けてくださらなかったんですか?」
私は泣くのを我慢するので精一杯だった。声が思わず震えてしまう。
「それは、俺はこの屋敷にいる時間が少ないから、実権をエラに握られてしまっていた。それで、把握するのが遅くなってしまった。エラに忠告はしたんだが、余計に悪化させるだけで、もしかしたら、今度は本当にラファを殺してしまうのではないかと思って、ラファに近づくのをやめて見て見ぬふりをしていた。」
憎たらしいぐらい筋の通った話だ。話し方も声も申し訳なさがこちらまで伝わってくる。ダメだ。本当に泣いてしまいそう。
「では、フランヴァート王子殿下との婚約を続行させたのはなぜ...」
「王家に嫁げば、エラも簡単に手出しはできないんじゃないかと思って...アグネス嬢のことは婚約破棄されるまで知らなかった。ラファが悲しい思いをしていたんだったら、もっと早くに婚約破棄しておけばよかったと思っている。本当にすまない。」
お父様の最後の言葉は聞き取るのが難しいほど小さな声だった。知らなかった。私はちゃんとお父様に愛されていたのね...
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