Episode 46
お父様の執務室で、私の隣にルークが。そして、目の前にはお父様が座っている。お父様はいつものように険しい顔で、ルークは笑顔で、目には見えないけれど二人の間に火花が散っているのがどこから見てもわかる。お父様の後ろに控えているサムは、呆れた様子でこの状況を見守っている。なんで落ち着いていられるのか、不思議だが、それ以上にどうにかして、この険悪な状況から、一刻も早く抜け出したい…。どうして、こうなったんだっけ。
◇ ◇ ◇
ルークに言われて帰ってすぐにお父様にルークと付き合っていること、明日ルークがここに来て挨拶に来ること、そして私が帝国に行くことを伝えた。するとお父様は藪から棒だったかのようにいつもだったら見せない、口を開けて目が点になっていた。
「ラファは、帝国に行くのか…?」
お父様の声には、耳慣れている凍てつく感情ではなく、ただただ生気がなく、(私が思うに)悲しそうだった。だけど、お父様にそんな感情があるわけがない。どうせ、私が家門に泥を塗らない限り何をしようと興味なんてないんだから。
「はい。ルーク皇太子殿下からそう提案を受けており、私はそれに従おうと思います。どうせ、フランヴァート王子殿下に婚約破棄され、」
あぁ、こんなこと自分で言いたくない。お父様を前にすると、どうしても卑屈になってしまう。そんな自分が嫌になる。視界からどんどんお父様が消えていく。
その上襲われかけた令嬢を娶りたい方なんてそうそういませんし、いても…」
私が幸せになれると思いませんし。
その一言が発せられることはなかった。ほとんどの意味で通じていると思うけど、あの鋭く冷たい目を向けられるのが、嫌だった。もう、これ以上、嫌な思い出を積み重ねたくなかった。
「ラファエラ…。」
お父様のその声が記憶のものと似てつかなくて、私を気遣っているような気さえして驚く。視線をお父様に戻すと…
(どうして、お父様がそんな顔をするの…?)
いつも眉に寄せているシワがなく、目じりが垂れている。そんな表情を見たことがなかったし、これ以上見ていたくなくて、
「そ、そういうことですので、明日、よろしくお願いします。」
と言って足早に執務室から出た。
あれがまずかったのかもしれない。だって、そこからルークを出迎える準備も出迎えも何の問題もなかったのだから。
お父様の執務室へ入ると既にお茶の準備がされていた。昨日今日で準備してくれたのは、ありがたかったんだけど、お父様の機嫌は悪かった。終始私たちを睨んでいるし、
「すぐに娘を帝国へ連れていくとは、どういうことですか?先日まで娘には婚約者がいたはずですが、それ以前からお付き合いされていた、ということですか?」
とルークに質問責めをしている。お父様が、帝国の皇太子にそんな物言いをするのに驚いた。だけど、質問の内容は相変わらず、家門のことを気にしてばかり。やっぱり、昨日のお父様の表情を見て、期待しない方がよかったんだ。あれから考えて、お父様が私のことを心配してくれているのかもしれないとおもったけれど、やっぱり勘違いだったんだ。深く考えなければ、よかった...
「あなたの娘さんには、私の方が学園に入学した時に一目惚れしました。当時娘さんには婚約者がいて、この気持ちに蓋をしようと考えました。しかし、フランヴァート殿に婚約破棄されたと聞き、娘さんに結婚の申し込みをしたんです。そして、その返事を昨日貰いました。ご存じかと思いますが、私は来週の頭には留学が終わり、帝国に戻らなければなりません。しかし、娘さん。」
と膝の上に置いていた手を私の手に被せる。
「ラファエラを王国に置いて帰ることができません。なので一緒に帝国に行かないか、と提案したまでです。お義父様が懸念されることは一切ありません。」
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