Episode 2
「あんのぉ、クソ王太子〜!」
マリがそう思いっきり叫んだ。誰かが聞いていると思うと、ゾッとするが、事前に消音結界を張ったから大丈夫だとおもうけど、
「マリ、叫ぶのはいいけど、叫ぶときは事前に言ってって言ってるでしょ」
「すみません。お嬢様」
謝っているマリの萎れた姿は耳のたれた子犬みたいだ。ちょっとかわいい。
「にしても、いつ婚約破棄の事知ったの?」
たとえ、執事が婚約破棄のことを伝えたとしても、マリは知らないはずだ。
「あぁ、奥様が『婚約破棄されたって〜!』って大声で叫ばれていたので。心底お怒りになっておられました。まぁ、大方社交界で笑い者にされるのが嫌だったのでしょう。」
お義母さまはもともとあまりパーティーに行けなかったそうだ。だからか、社交界が好きで、よくパーティーに行っている。私と王太子殿下との婚約破棄は当分社交界で話題になり、噂されるのは当然だ。それで、周りのご婦人たちから嫌味を言われるのがそうとう嫌なのだろう。
「お嬢様っ!卒業パーティーの一部始終をこのマリにお聞かせください!」
本当はマリにそのことを言いたくなかった。だってその後、大騒ぎするのはマリなんだもの。慰めるのがこれが意外と大変なのよねぇ〜。だけどわたしはマリの気迫に気圧されてすべてをマリに伝えた。
◇ ◇ ◇
「はぁ!無属性だから婚約破棄ですか!お嬢様は学園を学力面では次席で卒業されているのに!!しかも、代わりの婚約者がアグネス様って!この国終わりじゃないですか!」
マリの声が私の耳を突き抜ける。いくら結界を敷いているからと言ってこの声量で叫ばれると本当に周りに聞こえていないのかハラハラする。そうは思いつつも、マリが用意してくれたお菓子をつまむ。
「ちょっと、誰が聞いてるのかわからないのよ。あっ、このマカロンおいしい。」
「大丈夫ですよ。お嬢様の結界魔法は世界一ですから!」
「結界魔法しか使えないけどね。まぁ、だからフランヴァート王太子殿下に婚約破棄されたんだけど。」
そう、無属性は誰でも使える結界魔法しか使えない。それゆえ、無属性の人たちはみな総じて”無能”と周りの人から軽蔑されるのだ。指輪の所持者がそれぞれの属性のトップの存在で9人の指輪の所持者だけが対等な立場なのだが、、、無属性のトップである私がこれほど軽蔑されて、ぞんざいに扱われるってことは、他の人達はもっとひどい目にあってるのよね。トップがこんなので本当に申し訳ない限りだわ。
「結界魔法しか使えなくとも、お嬢様は学園に入ってから、無属性の指輪の所持者として与えられた任務を忠実にこなしてきたじゃないですか!!しかも、結界魔法は周りからものを守るだけじゃなく、この消音結界だって、お嬢様が開発されたものじゃないですか!お嬢様が婚約者に選ばれた理由は指輪の所持者だからじゃなくて政治分野や経済分野で同い年の女性よりも秀でてるからですし。あのクソ野郎はそのことを理解してないんですよ!アグネス様は確かに上級魔法で魔力量も高いですけど!学力面では下から数えたほうが早いくらいですよ!」
マリは呼吸もせずに、早口言葉のように喋る。とてもハァハァしてるけど、大丈夫かしら。でも、マリが言っていることは私もそう思う。自分で言うのも何だが、私の代わりがアグネス様なんてとても務まるとは思えない。
幼少期から、毎日のように勉強漬けで頑張ってた。周囲からの浴びせられる批難で時には右の中指に光るこのアメジストの指輪を恨んだこともあったけど、お父さまに認められたい一心で頑張ってきたのに。ようやくこの国の重鎮たちにも認められてきてた。本当にこの6歳から18歳までの王妃教育と帝王学は何だったんだろう。王妃様にも家庭教師にも面目が立たないわ。婚約破棄されては本末転倒よね。
「で、これからお嬢様はどうするんですか。いまこうやって優雅にお茶してますけど、」
そう、マリは私が帰ってくる前に”ゆっくりできるように”とお茶の準備をしてくれていたのだ。私はティーカップを片手に、マリが用意してくれた茶菓子を食べている。今食べていたマカロンを飲み込み
「とりあえず、1週間後に魔帝会議が控えているから、そこまでは部屋で大人しくしてろって。」
お父さまに言われたことをそのままマリに伝える。私もみんなに会えるの、楽しみだな〜。それを伝えて、さらに激怒するかと思ったけど、逆に目を輝かせていて、嬉しそうだ。
「____!」
「どうしたの。急に目を輝かせて。」
「いーえ。なんでもありません。」
ずっとマリは終始にこにこしてたけど、最後まで理由は教えてくれなかった。
読んでいただき、ありがとうございました。
ちなみに魔帝会議とは物語に出てくる9人の指輪の所持者たちが1年に1度集まる会議のことです。
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