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SWORD of C 〜 帝国の人斬り令嬢《ブルートザオガー》は心ゆくまであなたを斬りたい  作者: 無色
Episode:6

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エルフの魔術

 通常、人間の魔術師は堕天使系(ネフィリム)といった例外を除き、先天的に魔力(マナ)を宿して産まれてくる。

 その際に魔力(マナ)の容量が確定しているのが、魔術師としての才覚を決定づける要因だ。

 魔術は想像力や鍛錬でその幅を拡げられるが、魔力(マナ)の総量はどうあっても増加することはない。

 魔力(マナ)の質は系統や属性を分ける重要な鍵だが、それこそが人間とエルフの魔術の差異でもある。

 

「人間は自分の中の魔力(マナ)を魔術へと変換して様々な事象を起こす。それに対してエルフは外……大気中に存在する魔力(マナ)に直接干渉出来るのさ」


 謂わば自然の支配だと、ライリーは手の中で小石を遊ばせた。


「あんた、この石に手を触れずに魔力(マナ)を流せるかい?」


 ツルギは無理です、と即答した。


「端的に、人間とエルフの差はそれだよ。自分を基点にした点の魔術と、空間を広く用いた円の魔術ってことだ」

「それはつまり、エルフの魔術は属性を冠さず環境に依存するということですか?」

「ある程度はね。得手不得手に魔術の熟練度や知識次第だが、それでも人間より汎用性は高いだろうよ」

「いやに古くさいというか、些か無骨ですらあるように思えますね」

「魔術の源流のようなものさ」


 加えて、人間は大気中の魔力(マナ)を取り込むことは出来ず、消費した魔力(マナ)は体力のように時間をかけることでしか回復出来ない。

 対しエルフはその逆だとライリーは説く。


「エルフは呼吸するように魔力(マナ)を取り込めるから、魔力(マナ)に際限が無い。純粋な魔術の勝負なら、これは大きな強みになる。魔術師ならその意味がわかるだろう?」

「魔術の規模次第では? 第一魔力(マナ)を取り込んだにしても、操れる容量(キャパシティ)はあるでしょうし。どちらが上という話でもないように思えます」

「本当に可愛げのない小娘だ」


 ライリーは悪態をついて小石をその辺に放った。


「実際に見てみないとわからないだろう。試しに自分を魔力(マナ)で覆ってみな」


 ツルギは手を剣の柄にかけ、言われるままに魔力(マナ)を高めた。


堕天使系(ネフィリム)の不気味な魔力(マナ)を触るのは気が引けるが……ほら」


 ツルギへと手を翳したライリー。

 すると、ツルギの魔力(マナ)が揺らいだ。


「これは……」

「他人の魔力(マナ)に干渉し、魔術の構築を阻害する。魔力(マナ)の扱いに長けたエルフならではの技だ」

「魔術の阻害……たしかにこれは魔術師にとって致命的ですね」

「並大抵の魔術師なら、魔力(マナ)を逆流させられて破裂するだろうさ。そうでなくても、戦闘中にそんなことをされれば魔術師は混乱して自滅する。その点一緒に来た小僧は見どころがあるね。あれはさぞ名のある魔術師だろう。練り上げられたいい魔力(マナ)と肉体だ」

「レーヴェさんは帝国が誇る一等星の一人ですから。まあ、そういう観点ならお宅のお孫さんも中々のものだと思います」

「当然だよ。マリーは私が直接魔術の指導をしてやったんだから。そこらの魔術師じゃ相手にもならないよ」


 ほう、とツルギは目を輝かせた。


「それはぜひとも相手をしてほしいものです。こう見えて好きなんです。人を斬るの」

「やめときな。孫を傷モノにされたら、あんたを殺さなきゃいけなくなる」


 ツルギは笑った。

 願ったり叶ったりなんですけどね、と。

 言葉を喉の奥に留めて。


「魔術の講義はこんなもんでいいだろう。何か収穫はあったかい?」

「どうでしょう。実戦まで指導してもらえれば、少しは満足出来るかもしれませんが」

「年配には気を配るもんだよ」

「ではここまでですね。やはり現物が手に入らなかったので、ちゃんと落胆はしています。けれど仕方ありません。これは主が与え給うた試練なのでしょう」

「その風体で信心深いのはどうなんだい」

「これでも聖書をそらんじることが出来るんですよ。なにぶん教会暮らしだったもので」

「孤児か。やだね人間は。腹を痛めて血を分けた子どもを捨てるんだから。堕天使系(ネフィリム)に目覚めるような子どもなら、それも当然だろうけど」


 ツルギが微笑気味に鼻を鳴らしたのを見て、ライリーは頭を掻いた。


「悪かったよ。言い過ぎた」

「気にしていませんよ。自分を産んだ親の顔なんてとっくに忘れましたし。今どこで何をしているのか、はたまたもう野垂れ死んでいるのか、それすらわかりません」


 どうでもいいことです、と結ぶ。


「そろそろ戻りましょうか。あまり長居すると、レーヴェさんがここの畑全てを手入れすると言い出しかねません」

「ハッハッハ、そりゃ大助かりだ」


 風に靡く髪を押さえながら、ツルギはいつもどおりの笑みを浮かべた。





 畑に戻ると、せっせと作業に勤しむレーヴェの姿が。


「おかえりなさいお嬢さん(フロイライン)。話はもう済みましたか?」

「はい。レーヴェさんは、もうすっかり馴染んだようですね」

「額に汗する労働は心地よいものです」


 レーヴェの働きぶりに、ライリーは感心したように、ほぉ、と声を漏らした。


「軍人にしとくのはもったいないね。あんた、マリーと結婚してうちの畑を継ぎな」

「魅力的なお誘いですが、私には軍人が性に合っていますので。彼女には私なんかよりいい人が現れますよ」

「そうですね! 私もそう思います!」


 マリーはきっぱりと、レーヴェを否定した。


「レーヴェさんはなかなかに好条件だと思いますよ。顔が良く、背は高く、紳士的で仕事は真面目、優しく、強く、それに女性を大事にします」

「タイプの顔じゃないので!」


 シンプルな理由に、ツルギは押し黙らされた。


「あとレーヴェさんは仕事ばっかりかまけて家庭を顧みなそうです! なのですみません!」

「君にステキな伴侶が現れることを祈っています、中佐」

「ありがとうございます!」

「勿体ないね。マリー、夕飯くらい食べていくんだろうね?」

「あんまり遅いと列車が無くなっちゃうもん。明日も仕事だし」

「まったく忙しないったら」

「ゴメンってば。今度の休暇のときは、もう少しゆっくりするから」

「休暇ねぇ」


 ライリーはワインの空き瓶を肩に担いで、レーヴェに視線をやった。


「いつまた戦争が起こるかわからない不安定な平和の中で、そんな時間があるのかね」

「心労痛み入ります。皆様の生活が脅かされぬよう、骨身を削り邁進いたします」


 レーヴェが頭を下げる横で、ツルギは、ふあぁ……と呑気にあくびをした。

 不安定な平和……それに一番退屈しているのは自分だとばかり。


「小娘」

「はい?」

「程々に生きな」


 ライリーの言葉の意味を上手く掴めず。


「はぁ……」


 ツルギは間の抜けた顔をした。


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