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SWORD of C 〜 帝国の人斬り令嬢《ブルートザオガー》は心ゆくまであなたを斬りたい  作者: 無色
Episode:6

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62/70

 季節は春。

 冬の静けさがようやくどこかへ去り、人々は装いを軽くし往来を闊歩する。

 木々には緑、野には花、少しずつ移りゆく四季の風情が国中を染めた頃。

 帝都(シュレイン)の一角の工房では、カン、カン、と鎚の音が響いていた。

 少女が額に浮かぶ汗を腕で拭った折。

 

「精が出ますね」

 

 ツルギが古い扉をくぐった。


「姫〜!♡」


 少女はツルギの姿を見るなり、目を輝かせて飛びつき抱きしめた。


「姫姫姫〜!♡ アタシに会いに来てくれたの〜?♡ 嬉しすぎるんだが〜♡」

「フフ、すっかり元気になりましたねキティさん」


 人懐っこく頬を擦り合わせる少女、キティ=アルレシュミットの頭に、ツルギは微笑みながら手を置いた。

 

「ガチで元気! フランたそに回復してもらったし!」

「何よりです」

「〜♡ 姫今日も可愛すぎて死ぬ〜♡」

「いっそそのまま死ぬのはどうですか?」


 と、エリザベートはテーブルにお土産のヴィントボイテル入りの箱を乱暴に置き、笑いながら額に青筋を立てた。


「うっわリゼじゃんなんで来たの? ウッザ邪魔くっさ死ね〜い」

「ムギィー!! 今すぐブルー様から離れなさい無礼者ぉ!!」

「うるさいですよリゼさん」

「ブルー様ぁ〜……」


 涙ながらに扱いの差を訴えるエリザベートであった。





 ほっと一息。

 

「ん〜このヴィントボイテルんまー♡」

「私が焼いたんですよ」

「ペッ」

「あー見ましたブルー様?! この人今ペッてしましたペッて!! 叱ってくださいよぉ〜!!」


 無視である。


「進捗はどうですか?」

「ボチボチって感じ?」

「完成までどのくらいかかりそうですか?」

「んーわかんない」


 キティは台の上の刀に視線を向けた。

 錆びて折れていた刀身が、今はすっかり刀のしての形を取り戻していた。


「もう直っているんじゃないんですかこれ?」


 エリザベートが刀の腹に触ろうとした瞬間。


「触んな」

「ぇ――――――――」


 キティの制止も意味を成さず、エリザベートの身体が中心から縦に裂けた。

 もとい、斬られた。


「だから言ったのに」

「ほう……」

「ビックリしました……何なんですかこれ」


 身体を再生しながらエリザベートがジトリと目を細めた。


「なかなかのものですね」

「さすが妖刀って感じ。触ろうとしただけであれだもん。めっちゃじゃじゃ馬」

「なんであなたは無事なんですか」

「そりゃアタシだもん」


 妖刀は人を選ぶ。

 気に入らない相手ならば触れることすら許されない。

 現に錆びて折れた状態ですら、エリザベートの骨を砕き、他数名の命を奪ったほどだ。

 それが元の姿を取り戻したとなれば、いったいどれほどの力を発揮するのか。

 ツルギは今から楽しみでならなかった。


「楽しみにしています」

「まっかせてよ姫。姫のためなら何百時間もぶっ続けで刀打っちゃう」

「それだけ武器作りが好きなのに、どうして修道院領(オスタニア)では拒んでいたんですか? ボロボロになるまで痛めつけられたというのに」

「気分じゃないのにやるわけなくない? 考えろよカス」


 ブチッ。


「……そうでしたか〜。武器職人の一族というから、てっきりどんな武器でも誰からの頼みでも請け負うヤリ◯ンなんだと思ってましたよ~」


 ブチッ。


「ヤリ◯ンくせーのはそっちだろって。てか喋りかけんなよ姫と二人っきりの空間が穢れんだよ口くっさ死ね」

「刀が完成したらあなたなんてお払い箱なんですよ。せっかくのブルー様との休日をなんであなたなんかに割かなきゃいけないんですか弁えなさいあと汗臭いです死んでください」

「頼んでねーだろブス」

「そっちの方がブスです」

「あ?」

「なんですか?」


 なんてことはない。

 子犬と子猫の睨み合いだ。


「はむ……そういえば、キティさんは結局軍属にはならないんでしたか」

「うん。ダルいし。国のためとかガラじゃないってゆーか。アタシは姫のために働ければそんでいーや。この鍛冶場提供してくれただけで満足。まあ姫がどーしてもっていうなら軍属もやむ無し〜♡ ぎゅ〜♡」


 ここはシルベスター名義で借りた空き家である。

 それを改修し設備を整え、工房の体を成したのだ。


「アルレシュミットは軍お抱えの専属職人でしょう」

「そんなのおじいちゃんの代までだっての。知ってると思うけどお父さんは武器作りやめてたし。まあアタシ的にはフツーに軍属になって素材使い放題の良い設備で武器作りするのもいいんだけどね〜、さすがに運命の出会いっていうか〜♡」


 キティはツルギの腕に自分の腕を絡みつけ、胸を押し当てた。


「姫マジしゅきぴ〜♡ 一生姫のためにだけ剣打ちたくなっちゃうよね〜♡ こんなに剣に愛された人アタシ初めて♡ チューしよチュー♡ ん〜チュチュチュ〜♡」


 唇を頬に当てられるのを拒みこそしないが、表情に変化はない。

 むしろエリザベートが憤り、笑顔を引き攣らせた。

 

「ブルー様、刀が出来たら真っ先にこの人で試し斬りしましょうね」

「姫に斬られるなら本望〜♡って言いたいとこなんだけど、じつはちょっと困ったことがあるんだよね〜」

「困ったこと?」

「折れた刀身は何とか鋼を継ぎ合わせて何とか再現出来たんだけど、このままじゃ仕上げらんないんだよ。砥石が無くて」

「砥石、ですか?」

「そんなのすぐ買ってきますよ」

「素人は黙ってろ。そこらの砥石じゃ、刀の斬れ味が良すぎて斬れちゃうんだよ」

「そこを何とかするのが職人でしょう。まさか出来ないんですか?」

「出来るわブス。ただその辺の砥石でやると仕上げがイマイチで、妖刀からただの刀くらいにはランク下がる」

「それはいけませんね」


 ツルギは立ち上がり、隣のキティを見下ろした。


「どうすればいいですか?」

「アタシらは特殊な鉱石を精製して宝具(アーティファクト)を作るときにもその砥石を使う。それならこの刀も良さげに出来るよ」

「その砥石はどこに?」

「それが前住んでた工房を売り払ったときにどっか行っちゃったんだよね。新しく手に入れようにも、それがちょっとめんどくてさ」


 めんどう?とツルギは小首を傾げた。


「ある国の原産で、そこでしか採掘出来ないんだよね」

「ある国?」

森賢国(グリンディアン)


 その言葉を聞いて、ツルギは悩ましげに腕を組んだ。

 今章もお付き合いいただけますようにm(_ _)m

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