表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SWORD of C 〜 帝国の人斬り令嬢《ブルートザオガー》は心ゆくまであなたを斬りたい  作者: 無色
Episode:5

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/70

私が壊れていることは

 風と氷……ノクトとフェリスの戦闘は熱を帯びた。

 すでに二人以外は置き去りで、戦いに入り込む余地などない。

 魔術師同士の戦闘は、それが一つの戦争規模に匹敵する。

 が、均衡が保たれていたのは僅か十分程度。


「っ!!」


 徐々にノクトが押され始め、彼女の額に汗が浮かび出した。


「どうした、その程度か一等星将(アストラル)の実力とやらは!!」


 魔術師としての力量はほぼ互角。

 だが、魔術師として致命的なほどに、ノクトには魔力(マナ)の容量が少ない。

 元々長期戦には不向きな上に、ノクトの目的はあくまで国際条約を加味した白貴王国(ブランシェール)軍の撤退にある。

 撃破ならまだ無茶のやりようもあっただろうが、ここに不壊の盾(ベスミェールチエ)グレゴリー=ロマノグリアに匹敵する魔術師、青薔薇の騎士(ブルーシュヴァリエ)フェリス=ル=ロアが居たこともノクトにとっての不運。


(せめて奴を退けることが出来れば……)


 肩を上下させて呼吸を落ち着かせ、宝具(アーティファクト)レーヴァテインに魔力(マナ)を纏わせる。


(この一撃で……!!)


 相討ちになる覚悟で一歩を踏み出そうとした矢先。


「間に合ったようですね」


 自分とフェリスとの間に現れた影に、ノクトは目を丸くした。


「ツルギ……!!」


 外套を優雅にはためかしたのも束の間、ツルギは斬っていいものの群れに向かって飛び出した。


「まだ、こんなにいっぱい……!! 最ぁぁい、高おおおお、です!!」


 フェリスは闖入者に面食らったもの、魔導帝国(ヴェルトリーチェ)の援軍と認識。

 即座に氷の矢を乱射した。

 が、目の前の少女は数百と放ったはずのそれを、ほんの一瞬で斬ってみせた。


「?!」


 背すじに嫌な気配が伝う。

 心臓が早鐘のように警告を出す。

 フェリスは咄嗟に天を穿つような巨大な氷壁で、自分目掛けて突進するその異物を分け隔てた。

 それは彼女にとって最良の一手であった。

 もしその選択肢を選んでいなければ。


「――――――――」


 頬の薄皮を斬られる程度では、けして済まなかったのだから。


「ああ、ああいけません……興奮しすぎて狙いがズレてしまいました……。次はちゃあんと、その首斬り落としてあげますからねえええ!!」


 フェリスは直感した。


「狂気に染まった双色の眼……人斬り令嬢(ブルートザオガー)……か!!」


 先ほどの氷壁で魔力(マナ)は底を尽きかけている。

 自分が疲弊しているのに対し、向こうはその気配は一切無い。

 加えて後ろには一等星将(アストラル)

 如何に軍隊を用いても、これ以上の戦闘は不可能であると判断した。


「っ、全隊退け!! 退けぇ!!」


 苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せ、自身は殿(しんがり)を務めながら軍を下げさせる。

 無論、ツルギはそれを見逃さない。


「ダメですよぉ!! これからが楽しいのに!!」


 白貴王国(ブランシェール)軍の背中を追いかけようとして、その首にレーヴァテインが添えられた。


「止まれ。追う必要は無い」

「……あれは国土を侵そうとした罪人です。斬っても問題はありません」

「こちらが先に手を出した。その前提があることを忘れるな。あとの判断を下すのは上層部だ。我々の任務はここで終わりだ」

「終わり……?」


 ノクトは剣を下ろして息をついた。


「報告しろ。ベルガとシュルトツィアはどうなった」

「…………」

「ツルギ」

「……操られていた方々は気を失いました。魔術の効果が切れたのか、魔術師が頃合いを見て解除したのかは不明です。民間人を守るために数人ほど斬りましたが、必要であると判断しました」

「本当に、そう判断したんだな?」

「はい」

「……ツルギ」


 ノクトは下ろした剣を再び払いツルギを斬りつけた。

 するとツルギは嬉しそうに、剣でそれを受け止めた。


「私をあまり甘く見るな。貴様ほどでないにせよ嘘はわかる。その上で答えろ。貴様が斬ったのは、斬るしかなかった者だけか」

「……クスッ、フフフ。はい。ちゃんと悪い人しか斬ってませんよ。そう約束しましたから。信じてもらえないなんて、私は悲しいですよノクトさん。疑うなら確かめて見ますか? 疑わしきは罰せよ……どうぞ、指輪に魔力(マナ)を流してください。ただその前に……この不完全燃焼は、どうにかしたいところです、けど……ねぇ!!」


 ツルギは乱暴に剣を振り上げ、ノクトの剣を弾き飛ばした。


「貴様……っ?!」


 それから首根っこを掴んで地面に押し倒し、ノクトに馬乗りになって顔の真横に剣を突き立てた。


「このままノクトさんを斬っても、きっと戦死の一つとして処理されますよね」


 この距離なら指輪を使うよりも速く斬れます……と、ツルギは笑みを歪ませた。

 それから、そっとノクトに覆い被さった。 


「……何の真似だ」

「ノクトさん……私、いっぱい斬りました。悪い人を、斬っていい人を。もっともっと斬りたくて斬りたくて、斬ろうとして、そしたら……全員倒れちゃいました。斬っていい人が、斬っちゃダメな人になったんです。その時の落胆ぶりといったら……筆舌に尽くし難いほど、悲しくて、むなしくて、最低な気分でした」

「貴様は……いくら斬ろうと満たされることはないだろう。貴様はいつだって満足なんかしていない。どれだけ数を斬ろうと、どれだけ強い者を斬ろうと。カーティスを斬ったときでさえも。貴様はどこまでいこうと、ただの狂った人斬りだ。心が欠落した、誰にも理解されない化け物だ」

「……そうですね。けど、一つだけ間違いです。私が壊れていることは、私自身が一番よくわかっています。わかっていて尚、斬りたくて仕方ないんです。ねえ、ノクトさん」


 私は……いったい何なのでしょうね。

 その言葉を最後に、ツルギはそのまま気を失うように眠った。

 魔術の反動と極度の興奮による疲労だ。

 少女の重みを受け止めながら、ノクトは高い空を見上げた。


「そんなこと、私が知るか」

 ツルギは書いてて楽しいキャラです。


 読んでいただけたことに感謝をm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ