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SWORD of C 〜 帝国の人斬り令嬢《ブルートザオガー》は心ゆくまであなたを斬りたい  作者: 無色
Episode:5

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二つの宗教

「失礼します」

「おおヴォルフラム!!」

「アンカー中佐……お久しぶりです……」


 ツルギたちが執務室を訪れたとき、部屋の中にはノクトとギャリングを初め、数人の顔ぶれが。


「ソフィアさん、相変わらず麗しいですね」

「こんにちはツルギさん」

「そっちの外道科学者もお久しぶりです」

改造(バラ)すぞメスガキ」


 第三部隊の隊長と副隊長、ソフィアとグレーテル。

 そしてもう一人。


「そちらは初めましてですね。ツルギ=ヴォルフラムと申します」

「リゼ=シュヴェールトです」

「よろしくお願いします。第六部隊隊長、ズィード=ヒャーハイツです」


 階級は大佐。

 歳はノクトより二回り上ほど。

 軍人というには線が細いが、それでいて立ち姿には芯が通っており、大人の落ち着きを感じさせる。


「第六部隊の隊長……それほどの方が何故? それに、この面子は」


 ツルギがノクトに視線を送る。

 ノクトは小さく息をついてから話を始めた。


「先ほど皇帝陛下より我々に命令が下った。修道院領(オスタニア)の内紛を鎮圧せよ、と」

「はあ……しかし」


 今度は視線をズィードに向ける。

 国内情勢の均整化……それが第六部隊の主題(テーマ)である。

 地方に争いがあればそれを治める、早い話が調停者だ。

 

「たしかに国内で起きた争いに関しては、第六部隊が主な管轄だ。だが」

「ミューラー大佐、私が」


 今度はズィードが話を切り出した。


修道院領(オスタニア)の内紛については?」

「宗教間の対立が原因とは」

「そのとおりです」






 まず初めに修道院領(オスタニア)とは、魔導帝国(ヴェルトリーチェ)南部に位置し、宗教を取りまとめる大聖堂が置かれる地である。

 魔導帝国(ヴェルトリーチェ)では国教を定めておらず、個人に宗教の自由が認められている。

 信仰対象、教義、スタイルに違いはあれど、宗教間どうしで競い優劣を決めようとすることは基本的には無い。

 が、その中でも二つの宗教は例外視されている。

 ベルガ教とシュルトツィア教。

 神を崇拝し神より与えられし苦難を試練と享受し、その先にこそ神より賜りし幸福があるとする、そう教義を唱えるベルガ教に対し、シュルトツィア教は、神とは人に試練と絶望を与えるものであり、人の幸せは人が自ら掴むものとしている。

 つまり、まったく正反対の教義ということだ。

 最初こそ小競り合い程度であった争いは、時を重ねるごとに激化。

 煽動された市民は暴徒と化し、略奪や強盗などの犯罪を繰り返すことに。

 最初はすぐに沈静化すると思われた内紛だが、今では他宗教を巻き込み、死者が出るほどの見過ごせない深刻な事態となっていた。


「まったく度し難い……失礼しました。争いの種はともかく、第六部隊の働きもあって最近は暴動も治まっていたはずですが」

「それが、状況が変わったのです」

「どういうことですか?」

「一週間ほど前、シュルトツィア地区でベルガ教の司祭が殺害されました」

「まあ、それはそれは」


 ご冥福をお祈りします、とツルギは手を組み合わせた。


「よりによって司祭とは。ベルガ教は黙ってはいないでしょう」

「ベルガ教はシュルトツィア教に抗議しましたが、現場の目撃者はおらず、シュルトツィア教は固く知らぬ存ぜぬの一点張り。業を煮やしたベルガ教は、武力でシュルトツィア地区に押し入りました」

「再び内紛の火種が燃えてしまったと」


 リゼの言葉に、ツルギは妙な話ですね、と一拍置いた。


「ただの信徒ならともかく、司祭ほどの地位を持つ方が、安易に他教地区へ赴くとは考えられません。それに事の真偽と発端はともかく、それでもまだ第六部隊の範疇。第一部隊や第三部隊の面々が召集された理由をお聞かせ願えますか?」

「……不運、としか言いようがありません。ご存じかと思われますが、修道院領(オスタニア)白貴王国(ブランシェール)との国境沿いに位置しています。かの国は、我が国の内紛に心を痛め、炊き出しや医療行為などの慈善活動に積極的な姿勢を示していました」

国境無き奉仕者(NBS)でしたか? 白貴王国(ブランシェール)の非政府組織。それがどうかしましたか? ……いえ、やはり結構です。なんとなく察しました」


 ツルギはさしたる興味も無さそうに言葉を切ったが、ズィードはあえてそれを口にした。

 内紛の激化により、巻き込まれた国境無き奉仕者(NBS)のメンバーが数名死亡したことを。


「それについて白貴王国(ブランシェール)から抗議文が届き、皇帝陛下は賠償でそれを贖う意思を表明しました。しかしかの国の王は聞く耳を持たず侵攻を開始しました」

「体のいいきっかけでしょう。この国に攻め入るための」

「だとしても、見過ごせないことには代わりはありません」


 国同士の諍いに発展したとなれば、前線部隊である第一部隊が投入されるのも充分頷ける。

 だが、それでも解せないとツルギが言う。


「わざわざ下士官である私たちを呼び出してまで説明することですか? 通常なら、第一部隊を召集してから」

「第一部隊への命令ではない。第一部隊所属の私とアンカー中佐、そしてヴォルフラム軍曹とシュヴェールト一等兵に直接の命令だ」


 明らかに普通ではない。

 自分だけならまだしも、ただの一等兵であるエリザベートの名前が連ねられているなど。

 それに加え、他は不要とばかりの魔術師のみで構成されたメンバー。

 そこから読み取れる意図は、一つであった。


「ノクトさん、お訊きしても?」

「ああ」

「これは皇帝陛下からの命令、でよろしいのですね?」

「……ああ」


 疑念、違和感、ツルギにとっては些細なことだ。

 皇帝の命令であれば断れるはずもないし、断る理由も無い。

 自分に求められる役割は一つ。


「了解しました。ツルギ=ヴォルフラム、皇帝陛下のために剣を握りましょう」


 内紛……侵攻……それら全てを大義名分の下に斬る。

 そう、全て。






 ――――――――






「手筈は整えたのかしら?」

「ご命令のままに」

「そう。ならいいわ。ついでに修道院領(オスタニア)もそのまま更地になってしまえばいいのに」


 私の庭で騒がしくするなんて、あまりに煩わしいもの。

 皇后エルメンガルトの物言いに、男はソファーでボール遊びをしながら返した。


「仰るとおりで」

「相変わらず可愛くない男。来なさい」


 ベッドの上のエルメンガルトの手を取り、指先にキスをする。

 男は猫のような目で見つめ、そっと皇后の上に覆い被さった。

 読んでいただきありがとうございます!


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