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SWORD of C 〜 帝国の人斬り令嬢《ブルートザオガー》は心ゆくまであなたを斬りたい  作者: 無色
Episode:4

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41/70

皇后の戯れ

 きっかけは、退屈と呟いたことだった。

 料理に飽き、酒を零し、流れる音楽を耳障りだと止めさせる。

 彼女の一言が場の空気を変えるのだ。

 

「何かもっとおもしろいことはないの?」


 それまで和やかであった会場の熱が冷めていくのを、その場の全員が感じた。

 そして。


「そうだわ。エリザベート」

「何でしょう、殿下」

「あなた、何か芸をしなさいな」


 皇后の気まぐれは始まった。


「芸、ですか?」

「ええ。そうね、犬の真似が見たいわ。四つん這いで庭を駆け回りなさい。ピッタリでしょう? 卑しい血を引くあなたには」

「控えよエルメンガルト」


 皇后エルメンガルトに待ったをかけられる唯一が、皇帝アルバートである。

 しかしエルメンガルトは、いいじゃない、と手元を飾り付きの扇で隠した。


「こんな立派なパーティーを催してくれたお礼なのだから。そうよね、エリザベート」

「はい」


 エリザベートはアルバートに微笑むと、テラスから庭に降り、手と膝を地面についた。


「ワンッ」


 鳴き声こそ可愛らしいもの、その様はとても皇族らしからぬものであり、軍人、家族含め全員が目を背けた。

 ドレスを汚すあられもない姿に、エルメンガルトは冷たい笑みを向けた。


「ウフフ、まあなんてはしたないのかしら。恥ずかしげもなくあんなことが出来るなんて。今に発情して腰を振り出すんじゃないかしら」


 エルメンガルトの命令に他意は無い。

 ただエリザベートを辱めるためだけのものだ。

 アルバートを含めそれは理解している。

 これが癇癪にも似た一時的な嗜虐であることを。

 だからこそエリザベートは、いつもどおりエルメンガルトの命令を聞いた。

 それでエルメンガルトの気が済むなら、と。


「ワンッ、ワンッ」


 尤もエリザベートには羞恥は欠片ほども無い。

 

「ほら、食べなさい駄犬」

「ワンワン」


 皆の前で辱められようが、ドレスが汚れようが、投げられ地面に落ちた肉に食らいつかされようが、彼女は何とも思わない。

 恐怖も無ければ怒りも無く、この無為な時間が早く終わればいいと、それだけを願った。

 少しすればエルメンガルトはこの時間にも飽き、アルバートに帰ることを提案する。

 それがわかっていたから。


「クスッ」


 しかしエリザベートの、その場の人物の意図とは裏腹に、一人笑いを込み上げた者がいた。


「アハッ、アッハハハハ! アハハハハ! なんですあのみっともない姿! アハハハハハ!」


 空気を読まず、腹を抱え、目にはうっすらと涙を浮かべ、ツルギは大笑いした。

 その様は人斬りに気分を昂ぶらせているときとは違う、年頃の少女らしいものであった。

 

「ヒィヒィ、ッククク……はーはー、お腹ッ、お腹が痛い……!」


 あの人斬り令嬢(ブルートザオガー)が笑っている。

 軍人の大半が目を丸くしてその様を眺め、ノクトを始め彼女をよく知る者は悩ましげに頭を押さえ、エリザベートは初めて見るツルギの姿に顔を赤らめた。


「ブルー様が私に、笑顔を……! はわ、はわわ……!♡」


 好きな人に笑顔を向けられ興奮し、はしたない姿を見せている自分に羞恥を覚え、居ても立ってもいられず顔を地面に向けた。

 ツルギはひとしきり笑うと、満足したようで目尻の涙を指で拭った。


「っく、はぁはぁ、ああ……笑わせてもらいました」


 そうしてやっと、静まり返った会場の中、全員の視線が自分に集まっているのに気付いた。

 

「存外、空気は読めないタイプですのね。ツルギ様」


 カタリナにそう言われるのは心外であったが、ツルギは自分が会場の空気を壊しているのを肌で感じた。

 それで気後れすることはなく、周囲もむしろツルギの愚行に半分感謝を覚えるほど。

 しかし一人、エルメンガルトだけはその限りではなかった。

 バシン、と扇を叩きつけ一言。


「帰ります」


 従者を引き連れ会場を後にする。

 その最中、ツルギに厳しい視線をやった。

 目が合った当人は、社交辞令代わりの笑顔を返したが。


「あらあら、まあ。どうやらパーティーはお開きにした方が良さそうですね」

「我が后が失礼をした。良き計らいであった」

「ありがたき幸せです。陛下」


 恙無くとはとても言い難くも、慰安パーティー(セレブレーション)は閉会する運びとなった。

 この章……なんか筆が進むな……


 差し支えなければ、応援の高評価とブックマークをいただいてもよろしいでしょうか!

 m(_ _)m

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