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SWORD of C 〜 帝国の人斬り令嬢《ブルートザオガー》は心ゆくまであなたを斬りたい  作者: 無色
Episode:2

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19/70

北の大地

「陛下!! いったいどういうおつもりでございますか!!」

「たしかに北王国(リンドベルク)との状態は良いものではございませんが、それにしても侵攻とは急な話!!」

「前触れ無き宣言に民も不安を隠しきれない様子!! 陛下のご意向とはいえ、これではあまりに!!」

「どうか真意を!! 陛下のお言葉を賜りたく存じます!!」


 アルバートは問答責めする臣下を一喝した。


「我の決定に異議を唱えるか」


 臣下たちは皇帝の迫力に揃って圧された。


「……北王国(リンドベルク)は先の工作員の件以降、数度に渡り我が国土への侵入を試みている。いつ何が魔導帝国(ヴェルトリーチェ)の安寧の綻びになるとも限らぬ。この国に生きる民のため、北王国(リンドベルク)を落とす。これは決定事項である」

「し、しかし!! 元帥閣下の言葉を待たずに!!」

「くどい」


 臣下のどよめきは終始止まず。

 侵攻を命じられたノクト率いる第一部隊は、直ちに帝都(シュレイン)を出発した。







「あぁ……なんでこんなことに……」


 列車の席でオフィーリアは膝に頭を埋めた。


「せっかく休暇申請通ったのに……同期で合コンしようって話してたのに……」

「しょうがねーだろ。陛下の命令なんだから」

「しかし何故陛下は急に北王国(リンドベルク)への侵攻をお考えになられたのだろうか」

「知るかー!! 大佐ー!! これ振り替えで休暇もらえますよねー?! 大佐の権限で何とかしてくれますよねー?!」

「春には休めるといいな」

「大佐ーーーー!!」


 これから戦争に赴くというのに、面々の様子は暗くない。

 第一部隊という前線を任された自負もさることながら、一等星将(アストラル)のノクトと、それに匹敵する強さを持ったツルギの存在が大きい。

 当のツルギはエリザベートの膝を借りてスヤスヤと眠りかけているが。


「お嬢はふてぶてしいな。見習いてぇよこの胆力」

「ふん。緊張感の無いやつだ」

「お祭り前ではしゃぎ疲れた子どもみたい。リゼも大変だね。着任早々ツルギのお守りなんてさ」

「いえ。ブルー様に膝を捧げられた栄誉に感謝が絶えません」

「そ、そう? ツルギといい、第一部隊(うち)って変な子集まってきてる?」

「類は友を呼ぶってやつなんじゃねぇか」


 ノクトは通路を挟んだ隣の席から二人の様子を伺い、訝しむ眼差しを向けた。

 そんな気配を察する様子もなく。

 ツルギは夢の中を揺蕩った。


 





 ――――――――






 謁見の当日。


「して、最後の条件とは」


 後ろ手を組んでツルギは言う。


「現在魔導帝国(ヴェルトリーチェ)を過剰に敵視しているのは、東共和国(ラルバジスタ)北王国(リンドベルク)の二か国。このどちらでも構いません。攻め落とせ、武力を以て制し属国にせよと命令してください」


 純粋無垢故に苛烈な要求を。


「馬鹿な……理由無き侵略など」

東共和国(ラルバジスタ)の科学力が欲しい、広く海に面した北王国(リンドベルク)の領海が魅力的、理由は後付けで構いません。陛下、あなたには愚帝になっていただきたいのです。支配欲に駆られ大地と力を欲した皇帝に。私の大義名分のために。いえ、可愛い娘のために。ご安心を陛下。戦争は勝者こそ英雄。事が終わった暁には、あなたは賢帝と呼ばれることでしょう。その時を心待ちにしていてくださいな」

「……何を」

英雄の凱旋(敵の首)をです」


 アルバートは吸い込まれそうな迫力に息を呑んだ。


「悪魔だな……」


 ツルギはニコニコと屈託なく笑うばかり。

 しばらく考えてから、


「……落とすなら北王国(リンドベルク)だ。東共和国(ラルバジスタ)とは国の規模が違う。国土は帝都(シュレイン)にも満たぬ小国。どちらが攻めやすいかは誰の目にも明らかだ」


 ではご命令を、と。

 口角を上げるツルギに、アルバートは命令させられる。


「斬れ」

「仰せのままに」







 ――――――――







 魔導帝国(ヴェルトリーチェ)の最北端、最小の領地、青海領(サイレア)

 深い雪が降り積もる中、列車は駅へと到着した。


「うぅ寒い……。冬の海辺ってこんなに寒いんだ……」

「身体の芯から凍っちまいそうだな」


 一同が厚着をしていても身を小さくしているにも関わらず。


「ふあぁ……」


 ツルギは相変わらずの軽装で、普段と変わらない様子。


「見ているだけで寒い……」

「せめてコート着なって」

「軍の支給するコートって絶妙に可愛くなくないですか?」


 ツルギ=ヴォルフラム、十五歳。

 お洒落に敏感な若者である。


「風邪引いちゃうよ?」

「そしたらノクトさんに看病してもらうので平気です」

「一人で寝込め」

「看病なら私が!! お身体の隅々まで拭かせていただきます!!」

「気持ち悪いです」

「無駄話はそこまでだ」


 その後、迎えの車両にて駐屯地に向かい警備隊と合流した。

 駐屯地では、


「ひっ?!」

人斬り令嬢(ブルートザオガー)?!」

「な、なんで?!」

「たっ助けてくれ! 斬られる!」


 兵士たちの恐れる声が散漫した。


「ブルー様は人気者ですね」

「何をした貴様」

「ほら、私ここに配属される前は各地で遊撃隊のようなことをしていたでしょう? それでわりと各地の国境沿いの警備隊とは面識がありまして」

「もういい」


 ノクトは痛くなりそうな耳を押さえた。


「おお!! 待っておりましたぞミューラー大佐!!」


 駐屯地の隅々まで響くかのような大声にツルギは耳を塞いだ。

 熊と見間違うような、髭を蓄えた大男がノクトに敬礼する。


「壮健のようで……何よりだ。アンカー中佐……」

「ワッハッハ!! いや何!! これしきの吹雪で参るようなヤワな鍛え方はしておりませんとも!!」


 二メートルを超える巨漢、ギャリング=アンカー中佐。

 この北方の国境警備隊の統括者。

 誰にでも別け隔てなく接する度量の大きな性格をしており、部下からの人望も厚い第一部隊の良心として有名な人物。

 そして、座右の銘は筋肉至上主義。

 

「おや? そこにいるのは……ヴォルフラム!! ヴォルフラムではないか!! 元気にしておったかね!! ワッハッハ!!」

「…………ニコ」


 ツルギ、めいっぱいの愛想笑い。


「面識があったか」

「ええ、まあ……」

「懐かしいな!! 士官学校の訓練以来であるな!!」

「士官学校……そういえば中佐は以前教職に就いていたか」

「ワッハッハ!! ほんの一年ばかりですがな!! 当時ヴォルフラムを担当していたのが私でして!! 昔から此奴は気骨があった!! 協調性は無かったがな!! すぐに退学扱いになったことですし!!」


 背中を叩かれそうになって回避。

 エリザベートの後ろに隠れるように身を潜めた。


「ああっ、ブルー様が私の裾を掴んでっ!!」

「貴様にも苦手な人種がいたとはな」

「アンカー中佐は……それはそれは斬り応えがありそうで、むしろ大変好ましい部類ではあるのですが……。如何せんうるさく耳障りで、暇さえあればトレーニングを強制してくるような筋肉ゴリラ……失礼、脳筋でいらっしゃっるので、どうにも相性が悪く」


 ツルギが応対に困っているのを見て、ノクトは少し機嫌が良くなったが、それを気取られまいと咳払いを一つ。


「アンカー中佐。すでに伝令があったとおり、我々は北王国(リンドベルク)への侵攻を開始する」

「陛下も思い切った判断をなさいますな。しかし攻め落とすのは容易なことではありませんぞ大佐殿。国力で劣るはずの北王国(リンドベルク)が、何故我らの侵攻を防ぎ未だ健在であるのか」

「わかっている。やはり気がかりになるのは不壊の盾(ベスミェールチエ)の存在だな」

不壊の盾(ベスミェールチエ)?」

「作戦を練りたい。将校はこの場に残り、それ以下は命令まで待機しろ」


 小首を傾げるエリザベートを他所に。

 ノクトの指示のとおり、ツルギらは退室を命じられた。







 屋内練兵場にて。

 

「ふっ、んっ……ああっ」

「もう一度」

「は、いい……んああ!」

「もう一度」


 ツルギに背中に乗られた状態で、エリザベートは腕立てに息を切らした。

 苦悶とは遠くかけ離れた悦楽の表情で。


「揺れて不快です。次は斬りますよ」

「はっ、はひぃ」


 堕天使の血(アスモデウス)は肉体を再生するだけでなく、苦痛を快楽に変える魔術。

 ツルギはこの特性を活かし、エリザベートに毎日過度なトレーニングを課していた。

 消費したそばから体力は回復。

 トレーニングによる肉体構築のメカニズムはそのままに、基礎体力と運動能力を倍以上に底上げする。

 早い話が、戦場で戦えるための身体を作るのが目的だ。


「はぁはぁ……エヘヘぁ……ブルー様のお尻の感触がぁ……ひゃうんっ」


 ツッコミ代わりの一突き。

 頭を貫かれてもエリザベートは恍惚とするばかり。

 刃が脳天を貫通した状態で腕立てを続け、エリザベートはツルギに質問した。


「はぁ、はぁ……あの、ブルー様。ミューラー大佐がお話されていた、不壊の盾(ベスミェールチエ)とは何なのですか?」


 読んでいた聖書に目を落としながら。


北王国(リンドベルク)の王子にして絶対の守護者。グレゴリー=ロマノグリア。最強の戦士の異名です」

「最強、ですか」

「これまで幾度となく帝国軍は侵攻を試みましたが、一度たりとて叶わずに無残な結果に終わりました。一人の防衛によって」

「たった一人に軍が手も足も出なかったということですか?」

「強さが突出した方というのは大多数いるものです。ノクトさん然り、アンカーさん然り」

「アンカー中佐もですか」

「あの方は私たち同様魔術師ですから。並の兵士が束になったところで敵うわけもありません」


 エリザベートの頭から剣を抜いて立ち上がると、窓辺へと近付き吹雪く外の景色を眺め、ニヤリと口角を上げた。


「そんなアンカー中佐を一蹴するだけの方……いったいどれだけ、斬り応えがあるのでしょう」








「中佐、忌憚無い意見を聞かせてもらいたい。グレゴリー=ロマノグリアに私は勝てると思うか」

「無理ですなぁ」


 ギャリングは左腕の義手をさすりながらそう言った。

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「はぁ、はぁ……あの、ブルー様。ミューラー大佐がお話されていた、不壊の盾ベスミェールチエとは何なのですか?」  読んでいた聖書に目を落としながら。 「北王国リンドベルクの王子にして絶対の守…
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