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SWORD of C 〜 帝国の人斬り令嬢《ブルートザオガー》は心ゆくまであなたを斬りたい  作者: 無色
Episode:2

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14/70

遭遇

腸詰め(ヴルスト)薄焼きパン(フラムクーヘン)揚げ芋(ポメス)……ここらへんは定番ですね」


 屋台で買ったものを両手に抱えて食べ歩き。

 レンズ豆のスープで身体を温めたあとは、塩気が効いたプレッツェルをパクッ。

 特にパンに挟んだカレー味の腸詰め(ヴルスト)は、ありふれたメニューながらツルギの味覚に合った様子。

 ホクホクと気分の良い足取りだ。

 そんなツルギを人々は奇異の目で見ていたが。

 無理もない。

 見目が整った少女が腰に帯刀しているのだから。

 軍服を着用していないというだけで、こうも際立つ異常性。

 尤も本人はそんな視線を意に介してすらいないが。


「あとは甘いものでも買って、お酒は……ノクトさんが怒りそうですね」


 新年祭(ノィヤール)の定番といえば、ベルリーナーと呼ばれるジャム入りのドーナツだが、ノクトは甘いものを苦手としていることをツルギは覚えていた。

 ならばあと二、三ほど適当に見繕おうとした矢先。

 

「はぁ、はぁ……! きゃっ!」

「あ」


 走ってきた少女らしい人物に後ろからぶつかられた。

 祭の気分に浮かれていたことに気付いたツルギだが、ハッとしたときには持っていたものを全て落としてしまっていた。


「す、すみません!」


 おまけに理不尽に怒鳴られる始末。


「待てそこの女!」

「逃げんじゃねぇ!」

「っ、本当にすみませんでした!」


 フードを深く被った少女は逃げ、また少女を追いかける男たちもツルギの脇を通り過ぎていった。

 落とした食べ物を踏み潰して。

 時間にして数秒間、ツルギは呆然とした。


「……主より賜りし恵みを蔑ろにせし者共に裁きの鉄槌があらんことを」


 それから、地面を蹴った。


「きゃっ?!」

「な、なんだ?!」


 一足の爆風にざわめく周囲の声を置き去りに。

 心底不快な気分と、斬っていい獲物を見つけた高揚が入り混じった心境で。







「はぁっ、はぁっ、やっとまいた……。本当にしつこいったら……きゃあっ!!」

「へっへっへ、やっと捕まえたぜ」

「手間取らせやがってこの女」


 路地裏に三人。

 少女が一人の男に羽交い締めにされ、もう一人の男がナイフを光らせた。


「や、やめてくださいっ!」

「せっかくの新年祭(ノィヤール)に一人なんて可哀想だと思ってよぉ。おれたちが相手してやろうってんじゃねぇか」

「誰も頼んでませんっ……! は、放して……痛っ!」

「うるせぇ女だな。いいからさっさとひん剝いちまおうぜ」

「へへへ、おう――――――――」


 男の手が少女のたわわな胸に伸びたとき。

 男の肘から先が消えた。


「へ?」


 ボトリと暗がりに落ちる自分の腕を見て、男はようやく発狂した。


「ぎゃあああ!! おれの!! おれの腕ッ!!」

「きょ、兄弟?!」


 三人が三人、わけもわからず混乱する。

 そんな中、ツルギはブーツの踵を鳴らした。


貧民街(スラム)のゴロツキの中でも、とりわけ頭の悪い人は好きです」

「だ、誰だ――――――――」


 視界から消えた一瞬、今度は男の足が翔んだ。

 

「足がぁ!! 足がぁぁぁ!!」

「問題を起こさない限り守るべき家族(ファミリー)。それが貧民街(スラム)の、DUST’(ダスト)家訓(ルール)です。それでも居るところには居るんです。あなたたちのような人が。斬っても誰も咎めない、ヒヒッ、人がぁぁぁ!!」

子鬼(ブルトガング)?! ……ひっ、ひいいいいい!!」


 男は少女の狂気的な笑みを見て、ようやくそれが誰であるかを理解した。


「あああ! すまねぇ! すまねぇ! あんたの目の届くところでバカなことしたのは謝るよ! だから、だから……!」

「謝る? 結ッ構ですよぉ!! 命乞いされても!! どうせ斬るんですからぁぁぁ!!」


 貧民街(スラム)において、この街に住まうことはDUST’(ダスト)の庇護下……家族(ファミリー)に入るということを示す。

 しかし家訓(ルール)を破れば家族(ファミリー)ではない。

 彼らは家族(ファミリー)に降りかかる火の粉を排すため、そうでないものを容赦なく切り捨てる。

 すなわち、家族(ファミリー)でないものが死のうが殺されようが、一切の関与をしないということだ。

 そして、貧民街(スラム)の人間は帝都(シュレイン)の法には守られない。

 たとえこのめでたい日に惨殺……否、斬殺されようとも。


「アッハハハハ!! アハハハハぁ!!」


 足元に広がる血溜まりの上で、新年祭(ノィヤール)に主が与えた糧にツルギは歓喜した。


「あぁ……もう一人、いましたねぇ!!」


 瞳孔が開いた目で少女に向く。

 身なりから貧民街(スラム)の人間でないことはわかったが、どうせ誰にも見られていない。

 このまま斬っても誰にも知られないだろうと高を括り、欲望のままに剣を振りかぶる。


「呪うならば、悲運を!!」

「キレイ……」


 ツルギはハッと剣を止めた。

 文字通り、首の皮一枚のところで。

 首すじに血が這うのも気にせず、少女はフードの下から金色の眼差しをツルギにやった。

 我に返ったツルギは剣を鞘に収め、ニコリと微笑んだ。


「女性の一人歩きは危ないですよ。浮かれた人はどこにでもいますから」

「ご、ゴメンなさい! あの、私……どうしてもお祭を見てみたくて。そしたらあの人たちに絡まれて……」


 ツルギは少女に妙な感覚を抱いた。

 目の前で人が斬られて、ここまで平静を保てるものかと。


「どうぞ」

「ハンカチ……あ、ありがとうございます」

「表に戻りましょう。あなたたちのせいでお土産が台無しになってしまったことですし。買い直さないと」

「あっ……ほ、本当にゴメンなさい! 弁償を……あ、持ち合わせが……」


 大げさに慌てて、それからキュルル……と可愛らしい音を鳴らす。

 少女はフードの下でさぞ赤い顔をしているのだろう。

 お腹を押さえて小さくなった。


「……弁償はまたの機会にお願いします。小腹が空いてしまったのですが、よろしければご一緒しますか?」

「い、いえ! そんな助けていただいたばかりか、見ず知らずの方にご馳走していただくなんて浅まし――――――――」


 キュルル……


「はう……!」

「構いませんよ。袖振り合うも多生の縁です。これも主の導きなれば」

「あ、ありがとうございます……えっと……子鬼(ブルトガング)、さん?」

「名前ではないのですが」

「ああ、ゴメンなさい! あの人たちにそう呼ばれていたもので!」

「……まぁ、なんでもいいですよ」


 一度は斬ろうとした相手だ。

 名乗る必要は無い。

 ツルギはそう考えた。


「では、ブルー様とお呼びしても?」

「ご自由に」

「私のことは…………リゼとお呼びください」


 それが偽名であることはすぐにわかったが、特に言及せず。

 ツルギは共に表通りへと戻った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リゼさんは身分が高そうですねえ、もしかして=皇女殿下。
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