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SWORD of C 〜 帝国の人斬り令嬢《ブルートザオガー》は心ゆくまであなたを斬りたい  作者: 無色
Episode:2

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新年祭《ノィヤール》

 新年祭(ノィヤール)

 新たな一年の始まりを告げる魔導帝国(ヴェルトリーチェ)の祝祭は、百八回目の鐘の音と共に始まる。

 街には陽気な音楽が流れ、深夜にも関わらず昼間の様相を呈していた。

 酒を飲み交わし、歌い踊って浮かれる。

 祭事とは名ばかりの、国が許した安息日だ。

 尤も、


「なんで私たちは仕事なんですかぁ〜」


 軍人は除く、である。

 積まれた書類の山を前に、オフィーリアは机に前のめりになった。


「仕方ありませんよ。非番じゃないんですから」

「にしてもですよモルガン中尉! せっかくの新年祭(ノィヤール)なのに、男も無しの女四人で仕事なんてあんまりですよぉ! ねぇミューラー大佐〜!」

「黙って手を動かせ。早く済めば外出許可を出してやる」

「む〜! ていうかツルギも手伝ってよ〜!」

「遠慮します。気分ではないので」


 ツルギは他三人がペンを走らせる中、優雅にコーヒーを嗜んでいた。


「一番階級下のくせに! ミューラー大佐からも何とか言ってくださいよ〜!」

「時間の無駄だ」

「うぅ……じゃあなんでツルギはここに居るの?」

「働いている人を眺めながら飲むコーヒーっておいしいんですよ」

「性格悪っ!! くっそ〜新年祭(ノィヤール)が終わったら絶対休暇取ってやる!」

「どこかに行かれる予定でもあるんですか?」

「ありませんよ! 彼氏が居るわけでもなし! わかってて訊かないでくださいよ! モルガン中尉の意地悪!」

「ご、ゴメンなさい」

「では彼氏が居たら何をするのですか?」


 ツルギが何の気無しに訊ねる。


「そ、そりゃあデートしたり」

「したり?」

「あとは、まあ……その」

「ああ、オブライエンさんは性欲を持て余してるだけでしたか」

「そんなんじゃないし!!」

「男性ならその辺に転がっているじゃありませんか。オブライエンさんは見た目は整っていますし、適当に見繕えばすぐセックス出来ますよ。男性は"可能"と思える女性には優しい生き物だと、娼館のお姉さんが言っていましたから間違いありません」

「ヴォルフラムさん、そういうことをあまり口にはしない方が……」

「ダメですか? 娼館のお姉さんが言っていたのですが」

「なんですかその娼館のお姉さんに対する絶対的な信頼……というかまあ、ヴォルフラムさん未成年ですし……」

「肉体の交わりは新たな命を宿し、己の中に巣食う邪な悪魔を祓う、主が認めし神聖な儀式です。積極的になることが何か不自然でしょうか」


 性知識の核心を知らないツルギ=ヴォルフラム。

 まだ十五歳の未経験者である。


「私はまだよくわかっていないのですが、皆さんはそういう経験はありますか? 娼館のお姉さん曰く、早い方は十になる前に卒業していて、二十歳になって経験が無いと魔術師になってしまうのだとか。不思議なことがあるものですね」

「ツルギ」

「はい」

「黙っていろ」


 刺すような視線を向けて黙らせる。

 ノクト=(シリウス)=ミューラー、十九歳。今年度二十歳。

 同じく疎い未経験の者の、それはそれは熱の籠もった視線であった。







「ふあぁ……それにしても暇ですね。留置所のゴロツキでも斬ってきていいですか?」

「働け」

「ノクトさんが夜勤で寂しいかと思って付き合ってあげたんですよ。あんまり素っ気ない態度だと、他の人に心が移ってしまいますよ?」

「願ったり叶ったりだ。両手を挙げて歓喜してやる」

「じゃあツルギ私と付き合う?」

「オブライエンさんはちょっと。斬り応えが無さそうなので」

「前代未聞のフラれ方したんだけど?!」

「どちらかというとモルガンさんの方が」

「ふえっ? わ、私ですか?」

「そこまで大きなお胸は未だ斬ったことがなくて」

「ひいっ?!」


 冗談ですよ、と冗談めいた風に言って。


「本格的に暇なので、街の出店で何か食べてきます」

「そうしろ。居ても邪魔だ」

「お土産買ってきて〜」

「了解です」

「待て。軍服は着替えていけ」


 ツルギは職務に追われる三人を置いて退出した。

 まるで野良猫のように自由に。

 尤も、


「ぎゃあああ!! おれの!! おれの腕ッ!!」

「足がぁ!! 足がぁぁぁ!!」


 野良猫とは可愛すぎる表現の、血に飢えた猛獣なわけだが。

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